アリアドニの遁走曲 原作:コニー・ウィリス&シンシア・フェリス(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : アリアドニの遁走曲(フーガ)
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B+
  • 分類 : SF(その他)
  • 初出 : 1994年9月26日~10月7日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : コニー・ウィリス&シンシア・フェリス
  • 脚色 : 樽谷春緒
  • 演出 : 川口泰典
  • 主演 : 華村りこ

干ばつにより荒廃した近未来のカナダは、西部合衆国とケベックの二つの勢力に分断され戦争状態にあった。
アリアドニは、西部合衆国に属するデンヴァー・スプリングズに住む16歳の女の子。
両親ともに科学者で、アリアドニ自身も科学者の卵だ。
しかし、ケベックによるレーザー空襲で家が破壊されてしまっただけでなく、母親のメディアが国家反逆罪で逮捕されてしまった。
父親のデアリーズは、いじけて飲んだくれてしまって役に立たない。
こうなったらアリアドニ自身がメディアの身の潔白を証明するしかない。
そんな中、同盟国である連邦国のエセックス皇太子の横やりやお付きの武官ジョスとの恋、そしてレーザー空襲を防ぐための軍事機密ジェムアメーバーの所在も絡んで、事態は様々な様相を見せ始める。



アメリカのSF小説作家コニー・ウィリスとシンシア・フェリスの共著によるSF小説を原作とするラジオドラマです。
コニー・ウィリスはヒューゴー賞やネビュラ賞を何度も受賞している有名な女流作家ですが、シンシア・フェリスの方は検索してもあまり情報がありません。
本作品は、女子が主人公で、内容もティーンエイジャー向けの軽めのもの。
日本でいえばジュブナイルとかライトノベル的な作品です。
ひょっとしてこの独特の軽さは共著のシンシア・フェリスの影響なのかも知れません。

とにかく川口作品が多かった

なお、本作品が放送された1994年は、とにかく川口泰典さん演出作品の多い年でした。
芦田健さんとの共同名義を含めると、新作全15作品のうち12作品が川口さんの関連作品。
特に本作品が放送された時期は、「ウォッチャーズ」から「レディ・スティンガー」まで8作品連続(うち5作品は海外原作)で新作の演出を川口泰典さんがされていた時期でした。
ちなみに、そのうち本作品を含めて連続して放送された3作品「あの夜が知っている」、「アナスタシア・シンドローム」、「アリアドニの遁走曲」はなぜかすべて「あ」から始まるタイトルの作品でした。どうでも良い話ですが。

海外原作だけど

さて、前に述べたとおり本作品は主人公である少女アリアドニの恋と冒険を描いたちょっとライトな作品です。
タイトルから想像されるほど「遁走」はしないのですが、出会ったばかりの敵か味方かわからない男性とたちまち恋に落ちてしまったり、アリアドニが割と安っぽい色仕掛けで事の真相に迫ろうとするところなど、正直いって、ちょっと安易な展開が続きます。
そのストレートさがこの手の作品の魅力ともいえるのですが、全体のトーンはSFというよりサスペンス調であり、しかもシリアスなサスペンスというよりドタバタ劇と言わざるを得ません。
原作の作品紹介を読むとアリアドニは少女ながら科学者でもあるようですが、本作品ではその要素は抑え気味であり、このこともこのラジオドラマのSF要素が抑え気味になった一因かも知れません。

主人公は普通の?少女

ちなみに、国内作家原作による似たようなイメージの作品としては、新井素子さん原作の一連の作品(「いつか猫になる日まで」など)、森脇道さん原作の「少女探偵に明日はない」、折原みとさん原作の「夢みるよう愛したい」などを紹介済みです。
この手の作品の定番として主人公の女の子の1人称は「私」ではなく「あたし」なのですが、こういった作品は主に1990年代までの「アドベンチャーロード」や「サウンド夢工房」といった番組名だった頃によくラジオドラマ化されました。
この頃の日本には「少女小説」とも呼べる一群の作品群があったのですが、その後、ライトノベルや、その後の携帯小説に吸収されるような形で下火になったように思います。
それに併せて青春アドベンチャーでもこのジャンルの作品がラジオドラマ化されることは減りました。
その中で本作品はやや遅れてきた、しかも「海外原作」という特異な位置づけの作品であったと言えます。

時代感の共有

しかし、このジャンルの作品を楽しむためには、登場人物たちの時代にぴったりとあった台詞回しと、その時代のその場所を知っていればこその空気感の共有が重要な気がします。
その点、海外原作作品である本作品は、どうしても文体が翻訳調になってしまいますし、かつ海外の少女の持つ空気を知らない私のような視聴者は、ややぴんとこない作品になってしまっていると感じました。
それにしても、主人公の母親が○○○だったというオチはなかなか日本では見られないものです。
この辺のドライさは海外作品ならではなのかもしれません。

宝塚歌劇団出身の女優さん

さて、出演者は、川口泰典さん演出作品らしく、宝塚歌劇団出身の女優さん中心であり、他の青春アドベンチャー作品にも多く出演されている方々が揃っています。
主人公のアリアドニを演じた華村りこさんが「愛のふりかけ」や「哲猫七つの冒険」などにも出演されているほか、アリアドニの母親メディア役の仁科有理さんは「あたしの嫌いな私の声」や「五番目のサリー」など多くの作品に出演されています。
事件の鍵を握る謎の女性であるクレア役の毬藻えりさんは、「アナスタシア・シンドローム」に主演されたのに続いて2作品連続のご出演です。

いつものメンバー

その他、アリアドニの相手役のジョスを演じたのは、本作品の二つ前の「あの夜が知っている」で主演された松本保典さんですし、エセックス王子役は「星の感触」などの古澤徹さん。
父親のデアリーズ役も「サンタクロースが歌ってくれた」や「西風の戦記」など多くの作品にご出演されている田山涼成さんです。
そういえば古澤さんは上記の「あ」で始まる3作品すべての出演されています。
以上のとおり全般に安定感のある配役ではありますが、否定的見ればいささかワンパターンな配役とも言えます。
いつもの演出家、いつもの出演者である中で、脚本家の樽谷春緒さんだけは、他の青春アドベンチャー作品ではお見かけしない方です。
どのような経緯で、この方に脚色が依頼されたのか興味深いところです。

【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらをご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。

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