- 作品 : ヴァーチャル・ガール
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA+
- 分類 : SF(海外)
- 初出 : 1995年5月1日~5月12日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : エイミー・トムスン
- 脚色 : 吉田玲子
- 演出 : 川口泰典、芦田健
- 主演 : こだま愛
私の名前はアーノルド・プロンプトン・ジュニア。
国が禁止している人工知能の研究をしたために大学を追い出された私は、持てる全能力を駆使してロボット「マギー」を作り上げた。
マギーはごみ置き場のスクラップと企業の払い下げ品からつくられたロボットだが、見た目は人間そっくりで、人工知能を搭載し性能も超一流。
何より、IT企業の後継者とするために私を手元から放そうとしない父親の手を一切借りずに、自分の力で作り上げた自分のためのパートナーだ。
しかし、ロボットをつくったことにより、私は父親と警察の両方から逃れなければならなくなった。
私とマギーの二人の逃避行が始まった。
本作品「ヴァーチャル・ガール」は、アメリカのSF小説家エイミー・トムスンの小説を原作とするラジオドラマです。
AI研究者の物語?
舞台は近未来のアメリカ。
人工知能の研究が禁止されているという特殊な設定はありますが、それ以外はあまり現実と変わらないアメリカが舞台です。
そのため、冒頭の紹介のとおり、失業中の研究者アーノルドとアンドロイドのマギーが、アメリカ中を旅するロードムービー的作品だと思って聴いていたのですが…。さにあらず。
前半終了時点で大きく話が動き、それにつれて当初はアーノルドだと思えた主人公も、実はマギーであったことがわかるようになります。
実は主役はAIの方
人工知能マギーが多くの人間と出会い、どのように変わっていくか、成長していくのかが、この作品の聴き所でしょう。
マギーを演じるのは、元宝塚歌劇団所属の「こだま愛」さん。
特集作品であった「新竹取物語 1000年女王」でも主演されている川口泰典演出作品の常連出演者でした。
誕生当初のたどたどしい言葉遣いの演技も、その後の女性らしい言葉遣いの演技もなかなか聴き応えがあります。
古田新太さんが準主役
その他の出演者としては、アーノルド役とナレーションを担当する「劇団☆新感線」の古田新太さんが準主役といったところでしょうか。
アーノルドは冒頭と終盤とで印象が違い、あまり良くない印象が残るキャラクターであるのは古田さんにとっては残念なことだったのかもしれません。
川口組集合
その他、橋本潤(現:橋本じゅん)さん、海津義孝さん、前田悠衣さん、あづみれいかさん、紘美雪さんなどといった、川口泰典さん演出作品ではおなじみの方が脇を固めています。
この中で一番印象的な方を挙げるならば、やはりAIのチューリングを演じた橋本潤さんでしょうか。
完全につくった声とつくった話し方をするコミカルなキャラクターで、専業の声優さんでもないのになかなか楽しい演技でした。
「おや、こんなところになぜか縄が!」は笑いました。
直截的過ぎるのでは?
さて、本作品は単純な娯楽作品ではありますが、貧困問題などアメリカの社会情勢を背景とした社会派的な側面もある作品です。
その点に関連して、少しだけ気になったのがマギーの「成長」について。
AIの成長を、どことなく一昔前の「女性開放」、「ウーマンリブ」的な意味での成長になぞらえている様に感じました。
マギーが女性(型のロボット)だから余計にそう思えたのかもしれませんし、私にも偏見があるのかもしれません。
女性の社会進出自体にも全く異論はないのですが、AIの成長過程を描くのに、現実の人間の社会問題の推移をなぞらえるのは、作劇上、いささか安易だったように感じます。
後味は悪くない
ただ、もしかすると本作品はそもそもSFではなく、そういったこと自体を描きたかった作品なのかもしれません。
それはそれで直截的過ぎる気もしますが、最終回の後半をまるまる後日談的な部分にあて、物語をきちんと描ききっている点では好印象な作品です。
途中に出てくる、ある登場人物が最後に再登場することも違和感のない伏線になっており、後味の悪くないエンディングです。
吉田玲子さんの脚本が光る
話をスタッフに移しますと、脚色は名作「分身」の吉田玲子さん。
いつも、ナレーションは少な目で、話の流れを適度に整理した好印象の脚本を書かれる方です。
吉田玲子さんは、その後、大人気テレビアニメ「けいおん!」のシリーズ構成(脚本家のとりまとめ)を担当されることになる方です。
テレビアニメ「けいおん!」は、4コマ漫画のテレビアニメ化という難易度の高いチャレンジに見事成功した作品であり、吉田さんの力量も窺われます。
ふたりで演出
演出は、こちらも「BANANA FISH」、「カルパチア綺想曲」、「魔法の王国売ります ランドオーヴァーPart1」など、多くの名作をものにしている川口泰典さん・芦田健さんのコンビ。
この「演出家が二人」という方式における役割分担がどのようになっているのか、よくわからないのですが、本作品の放送を聴いていると、前半最後に川口さんが、後半最後に芦田さんがコールされており、前半と後半で分担しているように見えます。
川口さんと芦田さんのコンビの作品は、1994年から1995年の短い期間に12作品にも及びます。
この時期は青春アドベンチャーのほとんどの作品に川口さんが関わっていた異常な時期でしたので、サポートに芦田さんが付く形だったのかも知れません。
【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらをご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。
【近代から現代にかけてのアメリカ合衆国を舞台にした作品】
第1次世界大戦後に完全にイギリスから覇権国家の座を奪い取ったアメリカ合衆国。
その発展期から現代までを舞台にした作品の一覧はこちらです。
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