- 作品 : 魔法の王国売ります ランドオーヴァーpart1
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA-
- 分類 : 異世界
- 初出 : 1995年4月3日~3月11日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : テリー・ブルックス
- 脚色 : 高山なおき
- 演出 : 川口泰典、芦田健
- 主演 : 松本保典
「魔法の王国売ります。
魔法と冒険の島。
騎士と悪漢、竜と貴婦人、魔法使いと妖術師のふるさと。
剣と魔法が支配し、騎士道に貫かれた世界。
この夢の国を治める王はあなたです。
時間と空間の彼方で夢を現実にしましょう。
価格100万ドル、個人面談あり。
その国の名はランドオーヴァー。」
(ニューヨークの某一流デパートの商品カタログより)
中年戦記
テリー・ブルックスの異世界ファンタジー小説「ランドオーヴァー」シリーズの第1作を原作とするラジオドラマで、1995年4月に放送されました。
ちなみに、ランドオーヴァーシリーズは、この後、同年9月に続編の「魔術師の大失敗」が放送されたのに続き、「黒いユニコーン」・「大魔王の逆襲」(1996年)、「見習い魔女にご用心」(2001年)がラジオドラマ化され、青春アドベンチャーの20年以上に及ぶ歴史の中でも有数の長期シリーズとなっていくことになります(青春アドベンチャーの他の長期シリーズについては、こちらの特集をご参照ください)。
中年弁護士は田舎でスローライフをおくりたい
さて、本作品の主人公となるのは、シカゴで弁護士をしているベン・ホリデイなる中年男性(ちなみに年齢はもうすぐ40歳)。
やり手として知られるベンですが、実は2年前に妻を亡くして以降、仕事だけの人生に倦んでおり、現実世界に未練がなくなりつつありました。
そのような時にたまたま目にしたのが、冒頭のデパートのカタログ。
契約の相手方であるミークスはどことなく怪しげですし、そもそも商品自体が夢物語ですので、半分は疑いつつも、提示された契約書がプロの目で見てもまっとうなものだったこともあり、この話に乗ってみることにします。
共同経営者に無理を言って1年間の休暇をゲットし、指定されたヴァージニア山中に向かうベン。
そこで霧に巻かれてふと気がつくと、何と現実には存在しないはずの王国「ランドオーヴァー」にたどり着いていたのでした。
魔法の王国の劣等生
しかし、城について早々、ベンはデパートの広告が嘘とは言えないものの、かなりの誇大広告であったことに気がつきます。
城はボロボロ、家来は僅か4人。
おまけに王国は他国からの侵攻に怯えており、20年前に当時の王と宮廷魔術師が逃げ出して以降、新しい王が居着かずコロコロと変わるという有様。
そう、ベンにとっては夢の王国であったとしても、そこに住んでいる者にとってはシリアスな問題を抱えた現実の国だったのです。
愕然とするベンですが、そこはプラグマティズムの国・アメリカで、優秀な法律実務家としてならした男。
その知識と能力を活用して王国の再建に乗り出すことになります。
まずは国内の四大勢力である、騎士団、妖精、魔女、ドラゴン対策。
さてどうなりますことやら。
中年弁護士が異世界へ行ったら人材不足だった件
このとおり、本作品は本ブログにおける分類では「異世界」としましたが、現実世界と全く接点がないストーリーではなく、現実世界から異世界に旅立つ形式の作品です。
当ブログですでに紹介した作品では、岡田淳さん原作の「二分間の冒険」や田中芳樹さん原作の「西風の戦記」と同種の作品です。
ただし、「二分間の冒険」の主人公が小学生、「西風の戦記」の主人公が高校生であるに対し、本作品の主人公ベンは中年男性。
まあ、中年男の現実逃避の話と言ってしまえばそれまでですが、ベンは優秀な実務家でもありますので、その能力と口のうまさ(自分で言っているだけで実際はそんなに口が上手いわけでもない)を生かして事態の収拾に積極的に関わっていくことが、本作品の大きな魅力になっています。
中年ゲームの破滅フラグしかない王様に転生してしまった
とはいえ、本作品は真面目一辺倒では全くありません。
宮廷魔術師・クエスターは全く効果が定かではない魔法しか使えませんし、宮廷書記のアバーナーシーは話し方が(ラジオドラマではわかりませんが外見も)犬っぽくてコミカルです。
全編にどことなくトホホ感というか、ユーモア漂っているのも本作の魅力です。
むかしRPGが大好きだった、でも今はちょっと人生に疲れた中年男性にお勧めの快作品ですが、そうでない若い人が聴いても(読んでも)楽しめる作品だと思います。
…とここまで書いていて思ったのですが、最近の日本のラノベ、いわゆる「なろう系」のチート小説の設定ってほとんどランドオーヴァーの焼き直しですな。
ランドオーヴァーって四半世紀以上前の作品なんですけどね…
中年弁護士はヒーロー声ですが、なにか?
さてさて、話を出演者に移しますと、まず、主人公のベンを演じるのは声優の松本保典さん。
川口泰典さん演出作品の常連出演者さんで、今まで紹介した中でも「あの夜が知っている」と「都立高校独立国」で主演、「バイオレンスジャック」でナレーションをしているほか、「猫のゆりかご」、「アリアドニの遁走曲」などにも出演されています。
宮廷書記であるアバーナシイを演じる井上和彦さんとともに、多くのアニメでヒーローの声を当てていた人気声優さんでもあります。
なお、松本さん、井上さんのお二人とも「BANANA FISH」にも出演されています(松本さんは第2部から)。
とある演出家作品の常連出演者目録
その他、「ブラジルから来た少年」や「ジュラシック・パーク」、「カルパチア綺想曲」などの川口さん演出の名作で主要キャストを演じていた海津義孝さんが本作でも健在で、クエスターとミークスの二役を演じています。
また川口作品と言えば宝塚女優さん。
本作品では千紘あいさん(「嘘じゃないんだ」主演)がナレーション(ちょっと慣れない感じ…)を担当しているほか、川口作品では主演(五番目のサリー・わたしは真吾など)でも、脚色(オズ・優しすぎて、怖いなど)でも大活躍の前田悠衣さんが、本作品にも出演されています。
また、2002年に放送開始されたフジテレビのバラエティ番組「トリビアの泉~素晴らしきムダ知識~」の司会で一躍ブレイク?した高橋克実さんも出演されています。
高橋さんは1990年代後半あたりからテレビドラマでお見かけするようになったと記憶しますが、「本格ブレイク前の高橋さんが青春アドベンチャーに出演されていた」こともひとつのトリビアかも知れません。
なお、ランドオーヴァーシリーズ通してのは配役は、こちらの記事にまとめています。
【ランドオーヴァーシリーズ】
第1作 魔法の王国売ります【本作品】
第2作 魔術師の大失敗(次作品、以下第5作まであり)
【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらをご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。
【30周年記念全作品アンケート】
2022年に当ブログが独自に実施した、青春アドベンチャー30周年記念・全466作品アンケートにおいて、本作品が11票を獲得して9位タイとなりました。
リスナーの感想等の詳細はこちらをご覧ください。
【近代から現代にかけてのアメリカ合衆国を舞台にした作品】
第1次世界大戦後に完全にイギリスから覇権国家の座を奪い取ったアメリカ合衆国。
その発展期から現代までを舞台にした作品の一覧はこちらです。
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