ネオ・ファウスト 原作:手塚治虫(ガラスの地球を救え~手塚治虫のラストメッセージ)

格付:B
  • 作品 : ネオ・ファウスト
  • 番組 : 特集「ガラスの地球を救え~手塚治虫のラストメッセージ」
  • 格付 : B-
  • 分類 : 幻想(日本/シリアス)
  • 初出 : 2000年12月28日~12月29日
  • 回数 : 全2回(各回50分)
  • 原作 : 手塚治虫
  • 脚色 : 富永智紀
  • 音楽 : 長谷部徹
  • 演出 : 吉田努
  • 主演 : 林泰文

本ラジオドラマ「ネオ・ファウスト」は、2000年の年末にNHK-FMにて90分ずつ二晩にわたって放送された特番「ガラスの地球を救え~手塚治虫のラストメッセージ」内で放送されたラジオドラマです。
この「ガラスの地球を救え」という番組は、俳優の中井貴一さんをナビゲーターに手塚治虫さんの生前の肉声で構成されたパートと、手塚治虫さん原作のラジオドラマ「ネオ・ファウスト」のパートに分かれていたようです。


今回紹介するラジオドラマはこのうち後者の部分であり、この2日間、それぞれ90分の放送時間のうち約50分を使って放送されました。
ちなみに、私は前者を聞いたことがないのですが、勝田久さん(「鉄腕アトム」のお茶の水博士役で有名)や大塚明夫さん(1993年以降ブラック・ジャック役を担当)も出演されていたようです。
どのような内容だったか興味深いですね。
なお、後日、2002年には「特集オーディオドラマ」の枠で90分×1回で再放送しています。

唯一無二

さて、手塚治虫さんについては今更、解説する必要はないでしょう。
「マンガの神様」にして「テレビアニメーションの父」。
異常な情熱と仕事量で漫画とアニメを作り続けた手塚さんは、その後進への影響力も含めて、「現代日本のカタチ」を作った一人であるというのは間違いないところでしょう。
まさに手塚の前に手塚なく、手塚の後に手塚なし。

手塚治虫最後の漫画と最後の随筆

その手塚さんの最後の漫画が、「グリンゴ」と「ルートヴィヒ・B」、そしてこの「ネオ・ファウスト」です(いずれも未完の絶筆)。
ちなみに、同様に執筆途中で他界され、未完に終わった随筆集のタイトルが「ガラスの地球を救え」。
本作品はこの随筆集と同じタイトルを持つ特番の中で放送された絶筆の作品のラジオドラマ化ということになります。

ファウスト+遺伝子工学

作品のモチーフはタイトルどおり、文豪ゲーテの「ファウスト」。
手塚さんにとって「ファウスト」は特別の意味を持つ作品だったようで、生涯に3回も翻案の作品を作っています。
ちなみに手塚さんは免許を持つ医者であったことでも知られていますが、本作品は生命の根源や遺伝子工学などが重要な要素になっている作品です。
「プラスミド」(細胞内で複製され娘細胞に分配される染色体以外のDNAの総称)などという言葉が自然と出てくるあたりも手塚さんらしい作品といえると思います。

悪魔と契約し過去の世界へ

さてファウストの話に戻しますと、ネオファウストはファウストとは、作品の舞台や登場人物は全く異なりますが、「悪魔との契約」、「快楽の追求」、「愛した女性による子殺し」など様々な要素が「ファウスト」第1部からの翻案です。
主人公は大学教授である「一ノ関」。
彼がメフィストフェレス(作中では「メフィスト」と略されることが多い)と契約し、宇宙の真理と生命の根源を追求し、ついでに快楽を極めるために1969年に時を遡るところから物語がスタートします。
時間遡行をした先で若い体を手に入れた一ノ関教授ですが、その際にすべての記憶を失ってしまいます(記憶を失うことをちゃんと一ノ関に伝えていないのはメフィストの悪意なのか?)。
そして、その時代で出会った成金・坂根第造(さかね・だいぞう)に気に入られた一ノ関は、「坂根第一」(さかね・だいいち)という名をもらい、新しい人生を生き始めるのですが…

環境問題との関連は?

これ以上は、やはり原作またはラジオドラマを聴いていただく方がよいと思います。
原作が絶筆であるだけあって、残念ながらこの作品も中途半端なところで終わります。
一応、「ガラスの地球を救え」という番組にあわせて環境問題とのつながりを終盤に持ってきてはいるのですが、「ネオ・ファウスト」の最大のテーマが環境問題だったとも思えず、「手塚治虫のラストメッセージ」として「ネオ・ファウスト」を持ってくるのは少し強引だったようにも感じました。
ただ、作家・長谷川つとむさんによれば、手塚さんの構想ではその後「ネオ・ファウスト」は地球環境に絡む大きな展開を見せる予定だったそうです。
確かに「ネオ・ファウスト」は第2部の序盤で途切れているのですが、「ファウスト」第2部と対になるのであれば、「ネオ・ファウスト」第2部はさらに大きな展開を見せていたはずです。
この時点での絶筆は本当に残念です。

「蒲生邸事件」ペア

さて、主人公の「坂根第一」(若返った後)を演じたのは俳優の林泰文さん。
大林宣彦監督作品の常連出演者さんですね。
ちなみに、若返る前の「一ノ関教授」(老人)は明石良さんが演じています。
また、準主演といってよい女悪魔・メフィストを演じたのは女優の白島靖代さん。
この林・白島の組み合わせは本作品の約2年前に制作された青春アドベンチャー「蒲生邸事件」の主演コンビでもあります。
本作品での白島さんの演技は少し感情的に過ぎてメフィストの小物感が際立ってしまったように感じられ、個人的には「蒲生邸事件」の時の上品な役の方が好きではあります。

その他の出演者

その他では、第一の恋人の高田まり子役の増田未亜さん(「ふたり」や「分身」など)、「よっしゃよっしゃ」が口癖(田中角栄か?)の坂根第造役の納谷悟朗さんあたりが主要キャストです。
そしてナレーションを担当したのは、「笑ゥセールスマン」の喪黒福造や、「ハクション大魔王」が懐かしい大御所声優・大平透さん。
この記事を書くにあたって確認したのですが、大平さんも2016年4月に亡くなられているんですね…

漫画のラジオドラマ化

さてさて、大御所・手塚治虫さんの最後の作品を原作として制作されたこのドラマ。
50分×2回の長めの枠、「スピリット・リング」・「DIVE!!」など名作の多い吉田努さんの演出、劇伴に慣れた長谷部徹さんの音楽(青春アドベンチャーでは「夏の魔術」、「垂直の記憶」など)など有利な点はあるのですが…
正直、ラジオドラマとしての出来は平凡。
論評の難しい出来だった「やけっぱちのマリア」(やはり手塚治虫さん原作)といい、漫画のラジオドラマ化はなかなか難しいと思わざるを得ません。

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