- 作品 : ホワイトダスト
- 番組 : FMシアター
- 格付 : AA-
- 分類 : SF(その他)
- 初出 : 2016年7月23日
- 回数 : 全1回(50分)
- 作 : 長田育恵
- 音楽 : 菅野由弘
- 演出 : 藤井靖
- 主演 : 亀田佳明
目覚めると、そこは知らない部屋だった。
ここはどこだ…
俺はなんで…
そうだ「プロジェクト」だ。
俺は、あのプロジェクトに自ら志願して冷凍睡眠に入ったのだ。
と、なると今は何年なんだ。あれから何年経った?
地球はどうなっているんだ。ホワイトダストはどうなった?
くそっ、この窓のない部屋では外の様子がわからない。
女性がひとりいるだけで他には何もないこの部屋では……?
女性!?
演劇ユニットてがみ座を主催する劇作家・長田育恵さんによるオリジナル脚本のラジオドラマです。
2016年に、宮沢賢治生誕120年企画「劇作家競作シリーズ・賢治の声を探して」の第3弾として放送されました。
宮沢賢治の影響力
ちなみにこの「劇作家競作シリーズ・賢治の声を探して」は全部で4作品が放送されており、すでに紹介済みの第1弾「I want to be.ケンジノウタ」のほか、第2弾が「星降る教室」、第4弾が「ケンタウルスと天使の矢」でした。
ちなみに、本記事は、2018年9月に、やはり宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」にインスパイアされたSF(?)作品である「カムパネルラ」(山田正紀さん原作)が放送されたことにあわせてアップしました。
今も昔も、宮沢賢治作品の影響力の強さ、影響を受けた作品の多さには驚くばかりです。
私も随分昔に一通りは読みましたが、それほどは惹かれませんでした。
クリエイターの皆さんとのセンスの違いを恥じ入るばかりです。
あっ、そういえばファミコンソフトの「イーハトーヴォ物語」は面白かったな。
でもこれもストーリーはすっかり忘れてしまいましたが。
賢治の知識不用で楽しめる
さて、上記のとおり本作品は宮沢賢治インスパイア作品として制作されたわけですが、ストーリーを理解するために宮沢賢治関係の知識はほぼ不要な親切設計の作品となっています。
確かに「どろの木」(銀どろ)や「此の身体そらの微塵に散らばれ」(賢治の詩集「春と修羅」の一節らしい)といった要素は使われています。
また、全体に、農業技師でもあった宮沢賢治にちなんでいるのか、穀物の品種改良がキーファクターになっており、科学技術によって人類を救うというモチーフは「グスコーブドリの伝記」にも似ています。
ひょっとしたら「ホワイトダスト」も「グスコーブドリの伝記」で火山の爆発により冷害を食い止めようとするストーリーを意識したものなのかもしれません。
しかしそういった要素はストーリーの理解にはほぼ必要がなく、単独のSF作品として楽しめるのが好印象でした。
いくら宮沢賢治インスパイアと言ってもやっぱり単独の作品として完結していないといけないと思います。
そもそも本作品は「失敗したグスコーブドリ」の話なので、パラレルな関係にある物語とは言えないと思いますしね。
SFとしてはやや中途半端
また、SFとしては、品種改良の失敗による遺伝子汚染といった、本格SFとして知られる小川一水さんの「天冥の標Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河」のレッドリートを思い出させる内容をうまく使いこなしています。
ただ、遺伝子汚染とホワイトダストの関係性が良くわからない(ただ偶然に同時期に起こっただけ?)のがSFとしては難点にも感じました。
ただ、ストーリーも50分枠に収めるべくシチュエーションを限定し、登場人物も3人だけにしており、FMシアターの枠を意識した良作だと思います。
主演は亀田佳明さん
その3人の登場人物を演じるのは、亀田佳明さん、林田麻里さん、井上裕朗さんのお三方。
主人公の北尾眞人(きたお・まさと)を演じる亀田さんは青春アドベンチャーでは「フランケンシュタイン」以降、「シュレミールと小さな潜水艦」、「フラワー・ライフ」、「1492年のマリア」など多数の作品に出演されており、もはや近年の青春アドベンチャーの顔のおひとりと言っても過言ではありません。
個人的にはやはり「また、桜の国で」のヤン役かな。
ヒロインの芹澤藍(せりざわ・あい)を演じた女優の林田麻里さんや、眞人の親友の畠中大悟(はたなか・だいご)を演じた井上裕朗さんの演技も印象的ではあります。
ただ、本作品は、出演時37歳だった実年齢より少し老成して聞えるしゃがれた声で眞人を演じた亀田さんあっての作品だったと感じます。
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