ウォッチャーズ 原作:D・R・クーンツ(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : ウォッチャーズ
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A-
  • 分類 : SF(海外)
  • 初出 : 1994年7月11日~7月29日
  • 各回 : 全15回(各回15分)
  • 原作 : D・R・クーンツ
  • 脚色 : 吉田玲子
  • 演出 : 芦田健、川口泰典
  • 主演 : 海津義孝

サンターナ山脈のサンティアゴキャニオンでトラヴィスは一匹のゴールデン・レトリバーに出会った。
アインシュタインと名付けられたその犬は、異常に勘が良い以外は人懐こい普通の犬で、妻を失ってやさぐれていたトラヴィスの心の傷を癒やしてくれたばかりか、新しいパートナー・ノーラとの出会いの機会まで作ってくれた。
つまり、アインシュタインとの出会いはトラヴィスにとって、これ以上ない幸運のきっかけだったのだ。
しかし、トラヴィスはそのときはまだ、その日同じサンティアゴキャニオンで彼の人生を変えるもう一つの出会いを果たしていたことには気がついていなかった。



なぜかクーンツの「書き方本」からスタート

ラジオドラマやテレビドラマ、あるいは映画に取り上げられていた作品に興味を持って、原作小説に手を伸ばす、ということは良くあることだと思います。
個人的には、最近では「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」がそれに当たり、既刊のシリーズ作品は全作読破したのですが、そのうちの1冊「九紋龍」の「解説」で文芸評論家の池上冬樹さんが言及していたのがD・R・クーンツの「ベストセラー小説の書き方」でした。
いえ、別に私自身が小説を書こうというのではないのです。
そこに書かれているという「面白い小説と言うにはこういうものだ!」という考えにいたく共感してしまったのです。

我が意を得たり

「そうそう、これだよこれ。例えば私がブログで高格付けを付けている作品はこういうヤツですよ。」と膝を打つ思いでした。
いうまでもなくディーン・R・クーンツ自身がアメリカを代表するベストセラー作家(SF・ミステリー・ホラー)であり、そのノウハウ?を惜しげも無く披露した「ベストセラー小説の書き方」がベストセラーになったのも尤もなことなのでしょう。
となると気になるのが青春アドベンチャーで唯一のクーンツ原作作品である「ウォッチャーズ」の出来。
これも当然、傑作になっているはずなのですが…

主人公は有能か?

という訳で、D・R・クーンツ原作のラジオドラマ「ウォッチャーズ」の紹介です。
主人公のトラヴィスは元デルタフォース(アメリカ陸軍の対テロリストの特殊部隊)の隊員でありながら、妻を失って以降は腑抜けている元軍人という設定。
クーンツは「ベストセラー小説の書き方」の中で、「主人公は有能でなければならない。」ただし「完全無欠な主人公も好まれない。」と書いていますので、まさにそのとおりの設定です。
元デルタフォースというのはさすがにちょっとチート臭い感も受けますが、彼を追う敵は「フリーランスの凄腕殺し屋」、「アメリカ合衆国・国家安全保障局(NSA)」、そして「凶暴な謎の生命体・アウトサイダー」という強烈な面々ですので、このくらいチートにしておかないと勝負にならないのかも知れません。

冒頭、困難そして結末

そのトラヴィスが冒頭、山中で2つの出会いをします。
クーンツ曰く「最初の3ページが勝負だ」。
ファーストシーンの重要性は言うまでも無いのですが、本作では正直、今ひとつと感じました。
まあ出会った相手のことがよくわからないというのが本作の眼目なので仕方がないところではあります。
続いてクーンツが主張するのは「相つぐ困難によって主人公をおいつめよ」。
これもどうかな。
確かに上記の3つの敵は序盤から捜索を開始するのですが、捜索の手がトラヴィスに迫るのは中盤以降で、序盤は割とゆっくり進みます。
そして「結末がおもしろくなけば失敗作とみなされる」。
うーん、気持ちの良いラストではあるのですが、予定調和的かな。
また、「仮面ライダー」や「サイボーグ999」の国で育った私としては、アウトサイダー側の悲しみももう少しじっくりと描いて欲しかったな。
クーンツも「テーマは小説を豊かにする」と書いていますしね。

こんな企画はいかが?

…というわけで面白くはあったのですが、「ベストセラー小説の書き方」ほどの感銘は受けなかった本作品。
ここで思いついたのは、どうせなら「ベストセラー小説の書き方」自体を原作として青春アドベンチャーで放送してはいかがかということ。
過去の青春アドベンチャーの名作から一部を切り取って、クーンツ先生の解説を入れていくスタイル。
長年の青春アドベンチャーのコアなファンに向けた面白い企画になると思うのですが。
実は、過去、同じような構成を取った作品があるのです。
それは「カフェテラスのふたり」時代に制作された「ザ・素ちゃんズ・ワールド-”ひでおと素子の愛の交換日記”から」(1986年)。
過去に制作された新井素子さん原作作品の一部をつまみ食いして、作品に盛り込んだ構成でした。
同作は同じ原作者だから出来たのかも知れませんが。

主演及び準主演

さて、最後の出演者のご紹介。
本作品の主人公・トラヴィスを演じたのは、1990年代の青春アドベンチャーではお馴染みだった海津義孝さん。
踊る黄金像」・「ジュラシック・パーク」などの主演作のほか、「カルパチア綺想曲」・「ブラジルから来た少年」などでの脇役も印象的です。
また、今回はNHKクロニクルでの並び順を重視して主役とはしませんでしたが、アインシュタインを演じた元宝塚女優の「あづみれいか」さん(サウンド夢工房の「わたしは真悟」)も準主役級。

今作も宝塚色強し

その他、ヒロインのノーラ役の姿晴香さん(元星組トップ娘役)、ナレーションの紘美雪さんが元宝塚女優さんです。
男性陣としては、実は3人の追跡者のうち2人を担当している古澤徹さん(BANANA・FISH)も印象的ですが、個人的に一番気に入ったのは関根信昭さんのビルワース。
のらりくらりと話をかわす世慣れた弁護士役ですが、「BANANA・FISH」のマナーハイムとまた違った意味でくせ者の彼をとてもいい雰囲気で演じており、昭和のアドベンチャーロードを思い出させます。


【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。こちらをご覧ください。傑作がたくさんありますよ。


【近代から現代にかけてのアメリカ合衆国を舞台にした作品】
第1次世界大戦後に完全にイギリスから覇権国家の座を奪い取ったアメリカ合衆国。
その発展期から現代までを舞台にした作品の一覧はこちらです。



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