あっちが上海 原作:志水辰夫(FMアドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : あっちが上海
  • 番組 : FMアドベンチャー
  • 格付 : A-
  • 分類 : コメディ
  • 初出 : 1984年7月23日~8月3日
  • 回数 : 全10回(各回10分)
  • 原作 : 志水辰夫
  • 脚色 : 能勢紘也
  • 演出 : 池松信介
  • 主演 : 橋爪功

東シナ海で漁船を遭難させることに成功した詐欺師の岩内亮。
しかし、彼はこの東シナ海で保険金詐欺以上の金儲けの匂いを嗅ぎつけた。
偶然にも米軍の秘密偵察機が近くに墜落したのだ。
そして匂いに惹かれて集まってきた面々も想定以上。
CIA、KGB、モサド、そして中国の諜報部。
岩内の明日はどっちだ?



冒険もの?

本作品「あっちが上海」は小説家・志水辰夫さん原作の同名の小説「あっちが上海」をラジオドラマ化した作品で、1984年にNHK-FMの「FMアドベンチャー」で放送されました。
志水さんはハードボイルドかつセンチメンタルな冒険小説で有名な方で、NHK-FMでラジオドラマ化されたもう1作の「背いて故郷」(音源をお持ちの方がいらっしゃればぜひお聞かせください)はそのようは作品です。
本作品も、この記事冒頭の粗筋を読むとそのような作品に思われるかもしれませんが…
スミマセン、これミスリードのためにわざとやりました。
実は、志水さんは元々ドタバタものが大好き(ご本人によるエッセイ(外部サイト)参照)で、本作品もドナルド・E・ウエストレイクにも似たコメディ色の強いドタバタ冒険ものです。

それともコメディ?

コメディ色といっても別にライトな内容ではありません。
起きている事件は紛れもなくシリアスですし、今のライトノベルようにお手軽に危機を乗り越えていくような展開ではありません。
次々と変化していく状況に追いまくられて、必死に対応していく様が結果的にコメディなのであって、世慣れた悪漢が主人公であることもあり、昭和感の強い大人向きコメディ作品になっています。
悪知恵の働く主人公がこれまた癖のある登場人物たちを上手く騙して、してやったりと思っていると、思わぬ状況の急変で大慌て。何とかリカバーしても…という形で作品は進行していきます。
本作の放送の10年ほど後に青春アドベンチャーにて立て続けに放送されたドナルド・E・ウェストレイクの3作品(「踊る黄金像」、「二役は大変!」、「嘘じゃないんだ」)をご存知の方であればほぼそれと同じような雰囲気の作品と思っていただければOKです。
ウェストレイクといえば冒険ものでありながら作品の舞台が狭い範囲に限られるという点でもウェストレイク的。
本作品はそのタイトルに関わらず舞台は全編日本国内(前半は主に東京、後半は五島列島)。
ではなぜ「上海」なのか。
それは最後まで聞いてみてのお楽しみです。
ちなみに本作品には「こっちは渤海」、「そっちで黄海」という冗談みたいなタイトルの続編構想があったそうで、「こっちは渤海」は実際に出版されています(主人公は同じ岩内)。

主演は橋爪功さん

本作品の主人公・詐欺師の岩内亮(いわない・まこと)を演じるのは演劇集団円の創立メンバーの一人で舞台俳優かつテレビ俳優でもある橋爪功さん。
「いわない・まこと」は「言わない・真」なわけで、まさに名は体を表すといえる人を喰ったような役名ですが、これを演じたのがまさに人を喰ったような演技が十八番の橋爪功さんというあたりは、配役の妙だと思います。
本作品制作当時、橋爪さんは43歳。
「京都迷宮案内」など2時間ドラマで主役を演じるようになるのは10年以上後のことで、この頃はテレビドラマでは主に悪役として活躍されていました。
個人的には1988年の大河ドラマ「武田信玄」の真田幸隆役が印象的ですね(あれも人を喰ったような役だったな)。
NHK-FMのラジオドラマでいうと「かわり目~父と娘の15年~」(2010年)などFMシアターの印象が強いですが、実はエンタメ系の枠である青春アドベンチャーでも「赤と黒」、「魔術師」に出演されています。
前者はナレーション、後者は悪役です。
また、ヒロインの千恵子を演じるのは1960年代の大映の清純派スターとして大人気を得ていた高田美和さん。
本作品が放送された1984年はちょうど歌舞伎俳優の片岡秀太郎さんと離婚された年になります。




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