- 作品 : 霧隠れ雲隠れ
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA+
- 分類 : 伝奇(日本)
- 初出 : 1994年4月4日~4月15日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 三田誠広
- 脚色 : 前田悠衣
- 演出 : 川口泰典
- 主演 : 橋本潤
時は戦国時代末期。
伊賀の国に生まれた霧隠才蔵は、伊賀忍者の集団戦法が肌にあわず、伊賀組を無断退職して、甲賀忍者・戸沢白雲斎に弟子入りしてしまう。
修行の結果、一応いっぱしの忍者になった才蔵のもとに、真田幸村なる武将が優秀な忍者をヘッドハンティングにやってきた。
契約金や年俸は気になるものの、とりあえず真田に就職することを決意した才蔵。
これが、才蔵の、雄々しくも儚い戦いの物語の始まり…だったのだろうか?
本ラジオドラマ「霧隠れ雲隠れ」は、芥川賞作家・三田誠広さんの小説「霧隠れ雲隠れ-スーパー忍者小説・真田十勇士」を原作とするラジオドラマです。
ちなみに三田誠広さんは、「暗殺のソロ」などにご出演されているベテラン女優の三田和代さんの実弟とか。
意外なつながりですね。
数少ない芥川賞作家の原作
さて、青春アドベンチャーはエンターテイメント作品を放送する番組ですので、日本SF大賞や星雲賞、日本ファンタジーノベル大賞などライトなジャンルを対象とした文学賞の受賞者を積極的に取り上げる傾向にあります。
一方、日本を代表する2大文学賞「芥川龍之介賞」(芥川賞)、「直木三十五賞」(直木賞)に関しては、大衆小説を対象とする直木賞の受賞作家はたくさん取り上げられており、なかには「蜩ノ記」のように直木賞受賞作をそのものを取り上げたこともあるのですが、純文学を対象とする芥川賞の受賞作家は、池澤夏樹さん(氷山の南、南の島のティオ)などとても限られた方しか採用されていません。
軽い!軽すぎる!
そういった面で本作品はとても例外的な作品なのですが、実は本作品自体は純文学ぽさはゼロの作品です。
真田十勇士というネタ自体が、歴史小説・時代小説より伝奇小説または講談向きです。
それに加えて本作品のノリがとにかく軽く、ストーリーも底抜けに明るく能天気なのです。
セリフに平然と現代の用語が混じりますし、だじゃれも連発。
「お前は考えが浅い、浅い浅い、浅井長政じゃ!」とか、真田幸村信者が聴いたら卒倒しそうなセリフです。
でも慣れちゃう
あまりにいい加減な性格をした登場人物と軽いセリフ(主人公の霧隠才蔵とその雇い主の真田幸村にその傾向が強い)、そしてカムイもびっくりのテキトーな抜け忍ぶりに、最初はなんじゃこりゃ?と思っていました。
しかし、これがそのうち慣れてくるのが不思議。
意外とかっこいい?
後半増えてくるシリアスなシーンでは、普段のチャランポランさがむしろ程よいアクセントになっていると感じます。
真田幸村の「妥協をしなければいけないなら、やりたいことをやめる妥協ではなく、やりたいことをするために妥協したい。」なんてカッコいいじゃないですか。
また、エンディング間近の淀君の「最後まで見れて良かった」のメタフィクション要素も予想外でした(ただし事前にあまり才蔵と淀君を絡ませていなかったので唐突感が強かったような…。この辺、やや脚本に無理があった気がします)。
しょーもない展開…だがそれがいい
なお、一応、補足しておきますと、後半シリアスになるといっても、全体の軽やかな雰囲気は変わりません。
真田幸村はあくまで能天気な戦争マニアで、作品中では「戦略の天才」といわれていますが、戦術の天才であることは確かだとしても「戦略眼」はまるでなし。
才蔵も忍者にあるまじき覚悟のなさで、あっちでふらふら、こっちでふらふら。
また、終盤まで例のしょーもない駄洒落は続きます。
でもこの作品はだからこそ良かったのだと思います。
大阪=ギャグ?
それにしても「タイムスリップ大坂の陣」といい、本作品といい、大坂の陣をネタにした作品はどうしてコメディ要素の強い作品になってしまうのでしょうね。
あっ「プリンセス・トヨトミ」はそうでもなかったか…
数少ない橋本潤さん主演作
さて、出演者についてですが、主役の霧隠才蔵役は、「ヴァーチャル・ガール」、「都立高校独立国」などにも出演されている橋本潤(じゅん)さん。
多くの青春アドベンチャー作品に出演された橋本さんですが、本作品は数少ない主演作品です。
いつもの川口組の面々
また、その他は、真田幸村役の海津義孝さん、千姫役の前田悠衣さん(現:前田真里さん)、猿飛佐助役の大輝ゆうさんから、十勇士の面々を演じる小須田康人さん、佐戸井けん太さん、吉田鋼太郎さんといった、いつもどおりの常連出演者(特に川口泰典さん演出作品の常連さん)で固められています。
ちなみに、前田悠衣さんは「オズ(OZ)」に続いて青春アドベンチャーでは2作品目の、脚色(スタッフ)+出演(キャスト)の二足のわらじですが、正直「オズ」よりだいぶ手慣れた印象を受けます。
なかなかの良作です。
【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらをご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。
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