- 作品 : 嘘の木
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A+
- 分類 : 幻想(海外)
- 初出 : 2023年11月20日~12月8日
- 回数 : 全15回(各回15分)
- 原作 : フランシス・ハーディング
- 脚色 : 中澤香織
- 音楽 : 森悠也
- 演出 : 木村明広
- 主演 : 能登麻美子
ダーウィンの進化論を否定する画期的な発見、ニューファルトン・ネフィリム。
それは肩に羽が付いていた痕跡のある人間の化石だ。
牧師で博物学者でもある、私の父、エラスムス・サンダリーはこの発見で世間の注目を浴び、そして世間からつまはじきに合った。
この化石に捏造の疑いが掛かられたためだ。
そして、周囲の冷ややかな目から逃れるために私たち家族は絶海の孤島への移住を余儀なくされた。
しかし、あの化石が偽物の訳ない。
捏造なんてありえない。
私はお父様を信じている。
本作品「嘘の木」はイギリスの作家フランシス・ハーディングの同名の小説「嘘の木」を原作とするオーディオドラマで、NHK-FMのオーディオドラマ番組・青春アドベンチャーで放送されました。
2023年新作唯一の全15回
青春アドベンチャーは通常全10回で1作品が放送されるのですが、年1・2回程度、全15回の長めの作品が放送されます。
本作品は2023年の新作で唯一の全15回の作品です。
お馴染みのヴィクトリア朝?
舞台となるのはヴィクトリア朝のイギリス。
実はこの時代を舞台にした青春アドベンチャーの作品は多く(こちらの記事をご参照ください)、その多くで元気な女の子(「月蝕島の魔物」のメープルとか、「スペース・マシン」のアメリアとか)が登場するため何となく誤解しがちなのですが、所詮は19世紀。
まだまだ女性に対する蔑視が根強い時代です。
また、科学文明に対する受容と反発が相交わっていた時期でもあり、本作品もそういった狭間の時代が舞台であることを色濃く反映した内容です。
基本は児童文学
縦糸は恐らく少女の成長。
保守的な思想の持ち主である父から邪険にされ、外面をよくすることにしか関心を持たない母にも相談できない主人公フェイス。
それでもあくまで父を守るために闘うことを決意するのですが、やがて自分の知る両親とは異なる彼らの姿を知るようになっていきます。
様々な要素
そして横糸はSF、ファンタジー、サスペンスあるいはミステリー的ともとれる様々な要素。
第1週に、肩に羽が生えていた人類の化石(天使?)や絶海の孤島といった道具立てが示され、SF的あるいはサスペンス的な展開を見せるかと思いきや、第2週目以降は犯人探しが主体となり推理劇の様相が強くなっていきます。
とはいえ中心に「嘘の木」という超常要素を中心におく変則ミステリーです。
少女が嘘をつく
ただこの嘘の木が「嘘を広めることにより真実を知ることができる」という能力を持つのがポイント。
父の無実を証明する、真実を見つける、といった公明正大な目的のために、嘘をつかないといけない。
純粋な少女が嘘を通じて大人になっていくということを暗喩的に示しているのかもしれません(またフェイスが嘘を操るのがうまいのよ…)
主演は能登麻美子さん
さて主役のフェイスを演じるのは声優の能登麻美子さん。
2013年の「いまはむかし~竹取異聞~」が青春アドベンチャー初出演で、2015年の「ニコルの塔」ではすでに主演されています。
「ニコルの塔」は2020年当ブログで実施の全466作品オールタイムアンケートでも第15位になった人気作です。
あれからもう8年も経っているのですが澄んだお声は相変わらずですね。
本作への出演については、演出の木村明広さんが原作を読んだときに「ドラマ化するなら主人公・フェイスはこの人に演じて欲しい」と思ってのご指名だったそうです(外部サイト)。
彼女の澄んだ声があるからこそ、ファイスの嘘をつく姿が印象的なのだと思います。
朴璐美さんの「らしい」役
その他、高橋理恵子さん、朴璐美さん、潘めぐみさん、平田広明さん、東地宏樹さんなど、木村明広さん演出作品らしく青春アドベンチャーには珍しく声優色の強いキャスティングです。
朴璐美さんは2001年の「イーシャの舟」や2006年の「太陽の簒奪者」、2012年の「レディ・パイレーツ」など主演クラスで度々、青春アドベンチャーに出演されていますが今作は久しぶりの登場かな。
相変わらず「らしい」役ですが、朴さんが出演しているだけで重要な役と分かってしまうのはちょっと惜しいですね。
ちなみに私は「進撃の巨人」の登場人物の中では朴さんが演じたハンジが一番好きです。
2023年だけで2回目のご出演
また、潘めぐみさんは「とけるストーリーボックス」に次いで2回目の登場。
今回は男の子役ですが、フェイスより年上という設定の割には幼い感じの声だったのが少し違和感がありました。そういう役なのかもしれませんが。
潘さんは女の子の役の方がいいかな。
【推しの子】の有馬かなの印象が強いのかもしれませんが。
中澤香織さんの脚色
一方スタッフサイドで一番気になるはやはり脚色の中澤香織さん。
「シンクホール」の「志願と拒絶」で、明るく楽しい冒険譚が中心のはずの青春アドベンチャーでドン引きの暗い話を書かれていたのが記憶に残っていますが、「さよなら、田中さん」、「王妃の帰還」、FMシアターの「木になった亜沙」などチリチリするような強いセリフの多い作品で見事な脚色をされています。
本作品でも(原作にもあるセリフなのかもしれませんが)序盤から「母はさらりと反射的に媚を売る」とか「あれは追放された者が住む島だ。私たちのように逃げてきた者たちの島だ」とか「ハワードより後回しにされることは慣れている。でも今、私は植物よりも下だとわかってしまった」とか胃が痛くなるようなセリフがいいタイミングで飛び出してきて実にイイ感じです。
ただ中盤から終盤にかけてはそういったセリフは影を潜めていきます。
その代わりファイスの嘘がスパイスにはなっているのですが、中盤以降、彼女の雰囲気が少し変わったこともあって嘘があまり痛々しく感じられないのが残念でした。
森悠也さんの音楽がつくる雰囲気
そして森悠也さんの地味な音楽がこれに輪をかけて陰鬱な雰囲気を作り上げています。
森さんの音楽、先日再放送された「時砂の王」などでは典型的にヒロイックな音楽だったのですが、見事なくらい違う雰囲気です。
それにしてもこの脚色でこの音楽。
このまま行くと結構辛そう。大丈夫かなと思ったのですが最終盤は優しい雰囲気の音楽でした。
そうそう本作品、最終回の3分の2はほぼエピローグです。
こういった贅沢な回の使い方はいいですね。
【パクス・ブリタニカの時代を舞台にした作品】
大英帝国の最盛期である19世紀から20世紀初頭にかけてのイギリスを舞台にした作品を整理しました。
ヴィクトリア朝から第1次世界大戦の勃発するジョージ5世時代まで。
あの作品とこの作品の設定年代の順番は?こちらをご覧ください。
【2023年リスナー人気投票上位作品】
当ブログ主催の2023年青春アドベンチャー・人気アンケートで、当作品が第1位の得票を得ました。
詳しくは別記事をご参照ください。
■中澤香織さん関連作■
日常的な舞台でもチクチクするセリフが魅力的。
中澤香織さんの脚本、脚色作品の一覧はこちらです。
コメント