無限への崩壊 原作:荒巻義雄(アドベンチャーロード)

格付:A
  • 作品 : 無限への崩壊
  • 番組 : アドベンチャーロード
  • 格付 : A-
  • 分類 : SF(その他)
  • 初出 : 1986年1月20日~1月31日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 荒巻義雄
  • 脚色 : 横光晃
  • 演出 : (おおかあきまさ)
  • 主演 : 榎木孝明

私は中央社会保管局国際心理警察機構の特殊浄化要員、いわゆる“ミュータンツハンター”だ。
ミュータンツとは、人類の中から誕生を始めた、超能力も持つ新人類。
しかし彼らの存在は人類社会に発展ではなく、混乱をもたらす。
我々の社会はそう判断した。
そう、ミュータンツは人類の一部ではない。人類の敵だ。
とはいえ外見は我々人類と全く異ならない彼らミュータンツを抹殺する任務は、ライセンスを持つハンターにとってもストレスが大きい。
思いあたるはっきりとした理由はないものの、ある時期から精神の平衡を欠くようになってしまった私は、精神分析医の元におくられることになったのだが。



本作品「無限への崩壊」は、荒巻義雄さんによる同名のSF小説を原作としたラジオドラマです。
なお、ネットで検索すると、原作とラジオドラマとはかなりストーリーが違うという記載も見られます。
本作品を脚色した横光晃さん(北海道ご出身で本作品も札幌局制作)は昭和30年代からラジオドラマの脚本を書かれていたベテラン中のベテランで、本作品と同時期に、アドベンチャーロードでは数少ないオリジナル脚本作品「21世紀のユリシーズ」も担当された方です。
そのため、大きく改編している可能性はあると思いますが、何分、古い小説ですので検証は困難です。
いつか原作小説を見る機会がありましたら検証してみたいものです。

架空戦記作家

ところで、本作品の原作者の荒巻義雄についての個人的な印象と言えばやはり架空戦記。
「紺碧の艦隊」とか「旭日の艦隊」とか。
というのも、学生時代の友人に荒巻さんの架空戦記の熱心なファンがいたんですね。
でも、どういうわけか、この点について私は彼の影響を全く受けず。
荒巻さんのことは、架空戦記とともにそのお名前のみ記憶され、現在に至っています。

実は古参のSF作家

しかし、今回、この記事を執筆するに当たり改めて調べてみると、荒巻さんは1972年に第3回の星雲賞日本短編部門を受賞している古参のSF作家さんとのこと。
「架空戦記のひと」というのは間違いではないにしろ、ごく一面的な私の思い込みでした…
ただ、本作品の原作は「宇宙25時」という短編集に収められているのですが、近年復刻されたそれは「定本荒巻義雄メタSF全集」のひとつとされています。
架空戦記はボードゲーム・シミュレーションゲームのリプレイと密接なつながりがあるものだと思います。
リプレイは現実のプレイヤーとフィクションのキャラクターの二重性を前提とするものであり、ある意味、メタ的なもの。
そういう意味では荒巻さんが後年、架空戦記を志向するのは必然だったのかもしれません。

精神治療SF?

さて、それはともかく本作品の内容に移りますと、舞台は未来の地球。
自分でも不明確な理由で精神を病んでしまった28歳のミュータンツハンター、コウノ・ケンは精神分析医の元に派遣され、サイコシミュレーターにかけられます。
「サイコシミュレーター」ってなんだろと思いますが、最近の言葉で言えば精神医療用のVRマシンといったところでしょうか。
技術の進歩で最近、ようやくゲームレベルでは実現し始めたVRですが、ラジオドラマの小道具としては1980年代の本作品、1996年の「お父さんの会社」、1997年の「サイコサウンドマシン」など使い古された感もあります。

雰囲気はエキゾチック

とにかく、この精神治療の過程でケンは自分の失われた記憶に気がつき、過去の真実を探る旅へと出ます。
この記憶と現実が曖昧になる展開が、エキゾチックで物憂げな音楽や効果音(後半の舞台は北アフリカのカサブランカですから!)と相まって独特の雰囲気を醸し出している作品です。
雰囲気的には後年の「レッドレイン」に近いかな。

わかりづらい結末

そして、最終的には、最強のミュータンツとの対決に至る訳ですが、結末もまた曖昧でわかりづらい。
見当違いな深読みばかりしている(これとかこれとか参照)私としては、最後に明らかになる「真相」にもまだ裏があるのではないかと勘ぐってしまう。
この真相が仮にケン自身が最も望んでいた結末なのだとすれば、そのような「夢」を見させるという形の敵の攻撃だったのではないか。
そう考えると、「エリナ」が全てを知っていることも、最後に医者が出てくることも不自然にみえてきます。
そもそも「無限への崩壊」とはどういう意味か。
人間世界が崩壊するということ?
ケンの内面世界が崩壊するということ?
深読みしがちでありながら抽象的な思考が苦手な私としては、なんともすっきりしない終わり方でした。

デビュー2年後の榎木孝明さん

さて、主役のケンを演じたのは俳優の榎木孝明さん。
本作品出演時は30歳。
連続テレビ小説では珍しい男性が主人公の作品「ロマンス」(1984年)で主演デビューしてから概ね2年後ということになります。
ちなみに前年の1985年には「ふたりの部屋」の「グリーン・レクイエム」にも出演されています。
また、ヒロインのエリナは女優の白木美貴子さんが演じています。


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