レッドレイン 原作:柴田よしき(青春アドベンチャー)

格付:AAA
  • 作品 : レッドレイン
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AAA-
  • 分類 : SF(その他)
  • 初出 : 1998年9月28日~10月9日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 柴田よしき
  • 脚色 : 丸尾聡
  • 音楽 : BANANA
  • 演出 : 土屋勝裕、中島由貴
  • 主演 : 滝沢涼子

人類史上最大の危機、小惑星の衝突は人類決死の対策で回避された。
驚喜する世界中の人々。
しかしそれは新たな危機の始まりに過ぎなかった。
小惑星の破片から回収された“D物質”が人間に感染を始め、感染者達は全身から放射能を放つ、凶暴化した生命体“Dタイプ”へと変質していったのだ。
シキ・キミハラは、Dタイプを“保護”することを目的とした“Dプロジェクト”の女性特別警察官である。
いつものように、突然凶暴化した女の保護に赴き、結果として射殺することになったあと、その女には記録では存在しないはずの子供がいた可能性に気がつく。
女はなぜ子供を隠していたのか。
Dプロジェクトの根幹を揺るがしかねない、ある事実の存在を予感したシキは、仲間の捜査官、セナ・ショウ・タケトとともに、真相を探るための極秘捜査を開始したのだが…



近未来の東京を舞台とした柴田よしきさん原作の小説「RED RAIN」(レッド・レイン)をラジオドラマ化した作品です。
本作品はSFサスペンス風の作品であり、青春アドベンチャーに取り上げられたもうひとつの柴田さん原作の「小袖日記」はライトなタイムトラベルミステリーです。
しかし、本来、柴田さんは警察小説やハードボイルドに強い方のようです。
本作品も舞台設定こそSF的ですが、主人公は女刑事ですし、おとり捜査で事件の真相を確かめていくなど、柴田さんらしい展開の作品になっています。

名古屋局らしいアンニョイさ

ところで、冒頭の粗筋紹介を読むと、本作品は捜査官がハードボイルドな捜査をしつつ怪物と戦っていく、明るく楽しい冒険活劇を想像されるかも知れません。
確かに粗筋だけみると、そういう一面もあるのですが、全体を覆おう雰囲気は陰鬱で、どこか浮き世離れしたアンニュイなものであり、「明るく楽しげ」とは全く言えない作品です。
青春アドベンチャーのファンの方であれば、NHK名古屋局が制作していた一連の短編集作品、いわゆる「名古屋脚本家競作シリーズ」に近い雰囲気と言えばわかりやすいかも知れません。
というか、改めて確認すると、本作品の演出は、1998年の「嘘の誘惑」、1999年の「悪戯の楽園」、2000年の「マジック・タイム」の「名古屋脚本家競作シリーズ」3作品でコンビを組んで演出されていた土屋勝裕さんと中島由貴さんでした。
そりゃ、雰囲気が似ているわけだ。
改めてNHKクロニクルで確認すると、本作品の登録局は「名古屋局」になっています。
なるほどね。

音楽・音響

さて、本作品の前半では、シキたち捜査官が、どこか幻想的な近未来の東京を巡りながら捜査を進めていきます。
この辺のシーンは押井守さん監督の「劇場版 機動警察パトレイバー」にも通じる物憂げな雰囲気です。
この雰囲気づくりに大きく貢献しているのは、BANANAさんの音楽。
エキゾチックでエキセントリックな音楽が、幻想的な世界観を補強しています。
同じBANANAさんが音楽を担当された「ロスト・タイム」の脳天気な音楽とは全く違います。
本作品、効果音も控えめですし、BANANAさんの音楽も始終鳴り続けているわけではなく、全体として静謐な印象なのですが、それだけに要所で入る音楽がとても印象的です。
また、効果音も良く聞くと、ステレオ効果が効いており、ラジオドラマらしいものになっています。

そして演技のコンビネーション

そして、これに輪をかけるのが登場人物達の性格造形と出演者さんの演技。
主人公のシキを演じるのは女優の滝沢涼子さんですが、このシキ、内面の感情変化は激しいものの、外面上はピンチでも割と淡々としているキャラクターで、彼女のキャラクターからも本作品は賑やかな作品になりようがありません。
ちなみに、滝沢さんは本作品の原作者である柴田さんの代表作である「RIKO(村上緑子シリーズ)」の映像化作品、オリジナルビデオと映画でも主役を演じており、柴田作品のヒロインの化身のような方でもあります。
また、その他のキャラクターについても、司令官的立場のセナ(演:今井雅之さん、追記参照。)はともかく、コミックキャラクターになってもおかしくない関西人のタケト(演:三上市朗さん)や新人のショウ(演:水橋研二さん)も、比較的内向的で暗いキャラクターであり、作品全体が独特のモノトーンの雰囲気に包まれています。
その中で、本作品を象徴する唯一の色が“赤=レッド”。
この時代、汚染された大気を区別できるように敢えて雨に着色しているという設定ですが、この雨のせいで真っ赤に染まった海が、清潔であるのに荒廃したこの世界を象徴しているようです。

ストーリーはそれほど…でも…

本作品を一言でいうと、「名古屋脚本家競作シリーズ」の雰囲気で「アドベンチャー」をやってみた作品といえると思います。
とはいえ、作品の終盤でシキがたどり着く“Dに関する真実”は割とSFではありがちのもので、はっきり言ってしまえばやや陳腐です。
また、丸尾聡さんらしい、やや場面展開の説明が不足しがちな脚本ですし、ストーリー自体も雰囲気先行で大した意味があるものではありません。
しかし、この退廃的で物憂げな雰囲気だけでも、評価に値すると私は考えています。
まあ、単に「子どもの話には弱い」といういつもの法則(「暗殺のソロ」、「光の島」など参照)が発動した可能性もありますが。

丸尾聡さんのオリジナルにも期待

最後にスタッフに関してですが、演出と音楽についてはすでに説明しているので、脚色と制作統括について。
まず脚色は、青春アドベンチャーでは「バッテリー」、「カラフル」、「翼はいつまでも」、「闇の守り人」などの丸尾聡さん。
本作品が丸尾さんの青春アドベンチャーの長編デビュー作になります。
丸尾さんはこれだけの原作付き作品を「脚色」されていながら、青春アドベンチャーでは長編のオリジナル「脚本」を担当されたことがありません。
面白い脚本を書いてくれそうな気がするので、残念です。
なお、丸尾さんは自分の脚色した青春アドベンチャー作品にご出演されることがとても多いのですが、本作品は初脚色作品だからか、名古屋で遠かったからか(?)、出演されていないようです。

佃典彦さんが出演

一方で、出演者に「佃典彦」さんのお名前があります。
この方は恐らく脚本家の佃典彦さんかと思います。
佃さんは名古屋の方ですし、本作と同様にBANANAさんが音楽を担当された「ロスト・タイム」の脚色者という関係もありますので。
この辺のつながりを考えると、この作品はいよいよ名古屋局制作っぽく感じてきます。
そして最後に、制作統括の竹内豊さんはアドベンチャーロード時代の名作「妖精作戦」を演出された方です。
青春アドベンチャー期になって、演出でとんとお名前を見かけなくなったのですが、本作品で「制作統括」(=プロデューサー?)をされているのを見ると、出世されたのかも知れませんね。


※2015/5/30追記
本作品でセナを演じた俳優の今井雅之さんが2015年5月28日に亡くなられたそうです。
享年54歳。
4月30日に記者会見で末期の大腸がんであることを自ら説明されてから1か月にも満たない後のことでした。
合掌。

コメント

  1. むぎのん より:

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    昔、途中だけ聞き、第二週を殆ど聞き逃したため、原作をざっと読んで脳内で補填していたのですが、今頃全話聞き直してみたらあまりにもラストが違うので戦慄いたしました。原作のラストを記憶違いしているのか猛烈に気になってきたので、読み直したいと思います。ラジオドラマが原作の中途までなのか果たして…。

  2. Hirokazu より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    そうなんですね。
    原作を読んだことがないので、よかったら結果を教えて下さい。

  3. コン より:

    SECRET: 0
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    面白い作品だなと思ったら「小袖日記」を書いた人の作品でしたね。「小袖日記」を楽しく聴いた自分のコメントを読んで改めてこの作品の面白さに合点がいきました。

    ちょっと疑問に思ったのが日本人の名前なのに何故か苗字と下の名前が逆になっていてしかも全部カタカナになっているところですね。シキとノダのやりとりの中でシキははっきりと自分の下の名前は「四季」と名乗ってますし、ノダも自分の苗字を「野田」と言っています。不思議ですね。

    アキラ・アソウの中性的な感じがよかったですね。このミステリアスな人物が醸し出す中性の魔力に思わず引き込まれてしまいました。彼女が何回も繰り返した「お前はお前として生きてきた時間を否定してはいけない」という言葉は本当に心に染みました。今ここにいる自分は過去なしでは存在することができない。普段から自分の過去を否定しがちですが、それでも過去を受け入れて自分の人生を歩みなさいという言葉に聞えてきました。

    シキは逃亡生活を送る中でも常に自分の娘ユカのことを心配して会いたがっていました。そしてやっと再会した時は自分より娘のことを優先する姿に涙が出そうになりました。子に対する親の愛情というのは本当に偉大であり、計り知れないものですね。

    この物語は「Dタイプ」という怪物と死闘を繰り広げる単純なものではなく、Dタイプになってしまった人の葛藤とそれを何処吹く風の如くなんとしてもDタイプを駆逐したい政府の思惑が絡み合った作品だと思います。Dタイプを異分子扱いして攻め立てることだけしか方法はなかったのでしょうか。自分の意志とは関係なく変質してしまう人たちに救いの手を差し伸べることはできなかったのか。劇中「ホロコースト」という言葉が登場していますが、正にこれは問答無用の大虐殺にほかなりません。

  4. Hirokazu より:

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    コンさま

    コメントありがとうございます。
    日本人の名前をカタカナにするのは近未来を扱ったSFではよくある手法だと思います。
    今とは違う時代であることを示す端的な方法なのでしょう。
    本作は名古屋局らしい独特の雰囲気が素晴らしい作品なのですが、以前コメントを頂いた方によるとかなり結末が原作小説とは違うらしいので、子の良さのどの程度が原作由来なのか、いつか確認してみたいと思います。

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