マクロプロスの処方箋 原作:カレル・チャペック(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : マクロプロスの処方箋
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A-
  • 分類 : 伝奇(海外)
  • 初出 : 2022年2月6日~2月10日
  • 回数 : 全5回(各回15分)
  • 原作 : カレル・チャペック
  • 脚色 : 鈴木アツト
  • 音楽 : 日高哲英
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 大空ゆうひ

1922年、チェコ・プラハ。
ヤロスラフ・プルス男爵とアルベルト・グレゴリの100年に及ぶ財産争いの裁判はブルス男爵の勝利へと形勢が傾きつつあった。
しかし、人気オペラ歌手エミリア・マルティの介入により一気に事態は混迷の度を深める。
彼女は、プルス男爵の屋敷にグレゴリに有利な証拠となる手紙が眠っているというのだ。
恋人同士である、ブルス男爵の嫡男ヤネスとグレゴリの弁護士の娘クリスティナは、協力してその手紙を探そうとするのだが、彼らの前にあらわれたのは3人の「E・M」の謎だった。



本作品「マクロプロスの処方箋」は20世紀前半を生きたチェコの国民的作家カレル・チェペックの戯曲を原作とするオーディオドラマです。
原作は「マクロプロスの処方箋」のほか、「マクロプロスの秘密」、「マクロプロス事件」など様々な邦題で訳されていますが、本作品は阿部賢一さんによる岩波文庫版をもとに、劇団印象(INZOU、indian elephant)を主催する劇作家の鈴木アツトさんの手により脚色されています。

元祖SF作家のひとり

本作品の特徴は2つ。
まずひとつはSF性、ホラー性。
カレル・チャペックは「ロボット」という言葉を作った人物として知られていますが、作品には後にSFと呼ばれるジャンルに近いものが多く、ジュール・ヴェルヌ(アドリア海の復讐皇帝の密使←いずれもSFではないけど)やジョージ・ウェルズ、コナン・ドイル(ロスト・ワールド)、メアリー・シェリー(フランケンシュタイン)などと並んでSF草創期のひとりといわれているそうです。
確かに本作品もタイトルの「処方箋」のとおり薬を使った****(ネタバレ防止)を目論む内容である点ではSF的です。

洋風ホラー?

ただし全体をとおして感じるのはむしろうすら寒いホラー性。
そう感じたのはひょっとして私だけかもしれませんが、肌を合せると死人のように冷たいなんて、ある意味直前のホラー作「うるはしみにくし あなたのともだち」より怖いと思いました。
その意味では少しだけ「カーミラ」に似た雰囲気も感じましたが、よく考えると音楽が同じ日高哲英さんだからそう感じたのかもしれません。

舞台or朗読劇

もうひとつの特徴は舞台演劇ぽさ。
主な登場人物は冒頭の粗筋にも書いた6人だけ。

  • オペラ歌手エミリア・マルティ:大空ゆうひさん
  • ヤロスラフ・プルス男爵:鈴木壮麻さん
  • プルス男爵の息子ヤネク・プルス:大久保祥太郎さん
  • アルベルト・グレゴリ:石橋徹郎さん
  • その弁護士であるコレナティ:林次樹さん
  • コレナティの娘でヤネクの恋人であるクリスティナ:音くり寿さん

正確には他にも登場人物はいますがストーリーはほぼこの6人の会話で進行します。
場面転換やアクションシーンも少なく、背景イメージも舞台のセットが頭に浮かぶような簡素なものであり、いかにも演劇チックです。あるいは朗読劇といっても良いかも知れません。

好みは別れるかも

このような静的な作品(動きの面でそうなのであってストーリーが穏やかな訳ではない)は、好みが分かれるところだと思います。
個人的には舞台劇を録音してきたのと大差のないつくりだと青春アドベンチャーで放送する意義は少し薄いかなとは感じました。
もちろん番組の多様性からこのような作品も歓迎(全5回ですし)しますし、終盤人類の進歩と自然に対するアプローチに関して、登場人物たちが激論を交わす様はSF的でドキドキしました。
クリスティナの下した結論はいささかありがちなものではありましたが。

キャスティング

本作品の主演は元宝塚歌劇団宙組トップスターの大空ゆうひさん。
2021年のFMシアター「黄昏ペンライト」でも主演されていました。
宝塚といえば「不滅の棘」というタイトルで同じ原作の作品を公演していたようです。
なお、ストーリーの中心だったりモノローグ担当だったすることから、実質的な主役はクリスティナを演じた音くり寿(おと・くりす)ともいえます。
そういえば「くりす」さんが「クリスティーナ」を演じていることに今気が付きました。
また、鈴木壮麻さんや林次樹さんの声にはあいかわらず特徴があり、会話劇である当作品にとてもあっていると感じました。



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