1848 作:並木陽(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 1848
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A-
  • 分類 : 歴史時代(海外)
  • 初出 : 2021年8月16日~9月3日
  • 回数 : 全15回(各回15分)
  • 作  : 並木陽
  • 音楽 : 日高哲英
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 真彩希帆

「『騎馬の民なるマジャルの王はかつて、東の果てより馬を駆り、この地にたどり着いた。羊…の群れ、え、悠然と…草を食み、荒々しき…いや猛々しき?…』 だめだめだめ!どうして私の書くものには心踊る勇壮さというものが宿らないのかしら…」
悄然としてユリシュカは筆を置いた。
羊飼いの娘を母に持ち、大平原を駆ける英雄の生涯に思いをはせる夢見がちな少女に過ぎなかったユリシュカ。
しかし、時代の荒波は近代化に立ち遅れた辺境の男爵家の少女の人生をも大きく変えていくことになる。
欧州のそして世界の歴史を変えた革命の1848年まであと少し。
ユリシュカも、そしてその兄カーロイも、まだ自らを待ち受ける運命を知らない。



本作品「1848」は、並木陽さん脚本のオリジナル歴史ドラマの第4弾です。
本作品の舞台は19世紀のハンガリー及びオーストリアであり、原作を提供した「斜陽の国のルスダン」や藤本ひとみさんの小説を脚色した「ハプスブルクの宝剣」を含め、並木陽さんが関連した作品では最も現代に近い時代を舞台としてます。

時代が近い作品

なお、本作以前に発表されたオリジナル3作品「暁のハルモニア」、「紺碧のアルカディア」、「悠久のアンダルス」と比較すると、本作品のタイトル「1848」には統一感がありません。
内容的にもこの3作品というより、他の作品と関連性があります。
その作品とは「ハプスブルクの宝剣」と「帝冠の恋」。
「ハプスブルクの宝剣」は本作品の100年ほど前のオーストリア・ドイツを舞台とした作品ですが、主人公エリヤーフーがハンガリーに助力を求めに行くシーンがあったりして歴史的な繋がりがあります。
また、より密接につながっているのが「帝冠の恋」。
「帝冠の恋」は本作品の1世代前が舞台で、本作品でも「帝冠の恋」の主要キャラのゾフィーやメッテルニヒが名前だけですが登場します。

被支配者側からの視点

いずれの作品もどちらかというと支配側(オーストリア側)から描かれた作品でしたので、本作品はこれらの作品に対する被支配側(ハンガリー側)からのお返事のような作品です(この辺の時代順はこちらの記事をご覧ください。)。
ちなみに、被支配者側に立った作品といえばポーランドを舞台とした「また、桜の国で」もあるのですが、これはさらに100年後の世界を舞台とした作品ということになります。

地方領主の子弟が見た3月革命

さて、本作品の主人公は冒頭の粗筋のとおりユリシュカなのですが、その兄・カーロイもほぼ主人公に準じる扱いがなされています。
このふたりのお嬢ちゃん・お坊っちゃんがお約束どおり「悪い奴」に騙されて財産を失い離れ離れになります(貴種流離譚ってやつですな)。
ただ、本作品にとってこの辺は導入部に過ぎず、物語も「モンテ・クリスト伯」的な復讐譚として深く掘り下げられることはなく、兄カーロイは復讐と理想実現のために権力に喰い込むことにより、妹ユリシュカは自由な芸術的表現を求めて民衆運動に加わることにより、1848年の動乱へと巻き込まれていく歴史物語となっていきます。
ふたりは「貴種」とはいえ地方領主の子弟にすぎませんし、ハンガリーに近代化・自由化が必要だという点でも一致しているのですが、権力者側、人民側と立場が異なってしまったため、異なる目線で同じ事態を見守ることになります。

やや共感しづらい部分があるものの…

この複数の立場から物語が進行するというのが本作品の特徴の一つなのだと思いますが、個人的には二律背反の立場から生じる矛盾や葛藤を一身で表現した「ハプスブルクの宝剣」のエリヤーフーの描き方の方がより印象的でした。
また、これは並木陽さんの作品全般の傾向なのですが、歴史物語としてみても、戦争にしろ政争にしろ発端だけ描いて、具体的な経過はイメージとナレーションだけで済ませてしまいディテールが描かれないことが多く、生々しさが足りない感じは受けました。
例外的にユリシュカの参加する運動については「労働者新聞」などディテールの描写もあったのですが、この辺を深く描くなら(この時期ケルンにいたはずなので史実的にはNGですが)無理矢理カール・マルクスを登場させたりして、フィクションとしての娯楽性を追求してしまって良かった気がします(「暁のハルモニア」のケプラー先生が良かっただけに)。

…などとやや否定的に書いてしまいましたが、これも並木陽さん作品の傾向なのですが、必ずしもハッピーエンドではないにしても、いつも気持ちの良いエピローグ的なエピソードが付いて話が終わるのは好印象です。
今回も最後の兄妹の対話は全15回の長めの作品を締めるにふさわしいものだったと思います。

真彩希帆さん初出演・初主演

本作作品で主役のユリシュカを演じるのは元宝塚歌劇団雪組トップ娘役の真彩希帆(まあや・きほ)さん。
2021年4月に宝塚歌劇団を退団されたばかりで、青春アドベンチャーも初出演です。
他にも霧矢大夢さん(ナルニナリス夫人役、他に「紺碧のアルカディア」)、野々すみ花さん(マルギット役、他に「帝冠の恋」など)なども宝塚のご出身。
本作品でのユリシュカは終盤、徐々に大人びていく(特に最後の場面に顕著)のですが、さすがの演技力でした。

藤井作品常連の海宝直人さん

一方のカーロイ役は「暁のハルモニア」や「タランの白鳥」などで実績のある海宝直人さん。
海宝さんは、劇団四季のミュージカル「ライオンキング」で史上初めて、子ども時代のシンバ(ヤングシンバ)と青年になってからのシンバの両方を演じられた方です。
なお、ヤングシンバといえば、皇太子フランツ・ヨーゼフを演じた横山賀三(ヨコヤマ・カザン)さんもヤングシンバ役の経験があります。
この皇太子フランツ・ヨーゼフは「帝冠の恋」と本作品の双方で声が付いた唯一の役(「帝冠の恋」では坂川慶成さん)なのですが、できれば鈴木壮麻さんのメッテルニヒももう一度聞いてみたかった気もします。


(補足)
当ブログで実施した2021年青春アドベンチャーリスナーアンケートで当作品が得票数第2位に輝きました。
詳しくは別記事をご参照ください。


【30周年記念全作品アンケート】
2022年に当ブログが独自に実施した青春アドベンチャー30周年記念・全466作品アンケートにおいて、本作品が14票を獲得して6位タイとなりました。
リスナーの感想等の詳細はこちらをご覧ください。
また、同アンケートの出演者編にて本作品に出演している海宝直人さんが9票を獲得し4位、真彩希帆さんが6票を獲得して7位になりました。
詳細はこちらをご覧ください。


【並木陽原作・脚本・脚色作品一覧】
中世~近代ヨーロッパを舞台とした多くの作品を提供された並木陽さんの関連作品の一覧はこちらです。



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