青髭公の五番目の花嫁 作:吉田小夏(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 青髭公の五番目の花嫁
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A
  • 分類 : 伝奇(海外)
  • 初出 : 2022年5月23日~6月3日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 吉田小夏
  • 音楽 : 日高哲英
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 真彩希帆

街医者の娘リリアナは、隣国の森で青く光るハッカを見つける。
父の薬草づくりの助けにと、それを摘もうとしたリリアナだが、そこに紫色の瞳と青い髪を持ち、甘い白檀の香りを漂わせる高貴な男性が現れる。
彼の名はガデル・マグダヌール公爵。
この森は彼の領地、彼女は隣国の領主の森を侵したのだ。
彼女の命を奪おうとする公爵だが、彼の城で一生を共にすることを条件に助命を許す。
リリアナは思い出す。
隣国の領主は、青い吸血蝙蝠の血を引く呪われた一族の末裔と噂されていることを。
彼に嫁いだ4人の女性が次々と不審な死を遂げたことを。
そして彼が青髭と呼ばれていることを。



本作品「青髭公の五番目の花嫁」は脚本家・吉田小夏さん脚本のオーディオドラマで、青春アドベンチャーでは2021年の「ヨコハマ・ジャスミンホテル」に続き2作品目のオリジナル長編脚本作品になります。
「ヨコハマ・ジャスミンホテル」が戦前の日本を舞台にした作品であったのに対して、本作品は近世のヨーロッパ、それも迷信が色濃く残る中央ヨーロッパを舞台にした作品であり、大きく異なります。

作品の時代設定

さて、本作品はナレーション等で明確に時代背景を説明しません。
その理由は後記のとおりなのですが、私含めヨーロッパの歴史に詳しくない方が多いかと思い少し調べて推測してみました。
まず、作中に「病弱」で「呪われている」とされるスペインの若き王カルロスの話題が出てきます。
これはハプスブルク家のスペイン王カルロス2世(1661年~1700年)だと思います。
オスマン帝国の圧迫を受けているという記述もありますので、時代設定としては概ね17世紀後半ということになります。

意外と現代に近い

この時代はフランスでいえば太陽王こと、ルイ14世の時代。
ルネッサンス期は100年以上昔、大航海時代も終わりを告げており、もう100年もするとフランス革命です(青春アドベンチャーにおけるこの辺の時代設定の作品群はこちらの記事に詳しく整理しています)。
いずれにしろ暗黒の中世とはもう言えない時代ですが、一方、地理的な舞台はかなりの辺境です。

もちろん偶然だけど

舞台の地名は「モルダヴィア」とされています。
モルダヴィア?どこ?という感じですが、今風に言うとモルドバ。
現在、ロシアの侵攻で大変なことになっているウクライナの隣国で、多数の避難民が流入していることでも話題になったモルドバです。
そういえばモルドバは昨今のニュースで欧州最貧国の一つという紹介のされ方もしていましたね。
正確にはモルダヴィア公国の版図は現在のルーマニアの一部とモルドバ共和国とウクライナ領の一部らしいです。
もちろんロシアのウクライナ侵攻の時期に本作品が放送されたのは偶然のはずですが、なんとも皮肉な状況です。

欧州の辺境

そしてルーマニアといえば吸血鬼ドラキュラ伝説。
ドラキュラ伯爵のモデルの一人と言われるワラキア公ヴラド・ツェペシュ(串刺し公)は15世紀の人ですので直接の関係はありませんが山深く迷信深いところだというイメージは残ります。
なお、吸血鬼伝説を題材にした「カルパチア綺想曲」のカルパチア山脈もモルダヴィアのすぐ西です。

さらに「青髭」

以上のとおり本作品は17世紀が舞台とは言え非常に幻想的なイメージに彩られた作品なのですが、それに更に幻想色を加えているのが「青髭」というモチーフ。
青髭はもともとはヨーロッパ各地に伝わる物語で、モデルはジャンヌ・ダルクの戦友であるジル・ド・レとも、ヘンリー8世とも言われますが詳細不明。
シャルル・ペローの童話やグリム童話などで取りあげられて一般化しました。
内容的には青髭と呼ばれる金持ちの後妻として嫁いだ女性が好奇心に負け、夫との約束を破って夫の秘密を知ってしまい、ピンチに陥るというものです。

近世の怪奇幻想譚?

本作品は以上のとおり、吸血鬼伝説と青髭伝説を組み合わせてつくられたもので、その意味では極めて正統的な西洋幻想怪奇文学の系譜を継ぐものと言えると思います。
よってこれ以上のストーリーの紹介は野暮というもの。
ただ、次々に扉を開けていくという15分番組にふさわしいリズムのある展開であること、毎回、次回に後を引く計算された終わり方をすること、今まで要望が多かった割に実現していなかった元宝塚女優さんの歌が実現していることなど、ファンタジックな雰囲気の割にリスナーをきちんと意識した合理的な脚本であることも印象的でした。

舞台設定について

舞台設定についてはこの記事を仮アップ後、脚本家の吉田小夏さんからTwitterにて詳細なご説明をいただき、想像していた通り考え抜かれたことであることもわかりました。
吉田さんによれば、本作品がキラミリアという架空の風土病を扱っていること、ゴシックロマンとして夢を残したいというご意思からわざと作品の舞台を濁している面があるそうです。
吉田さんのご了解を得ていただいた情報の一部を末尾に追記しますが、敢えてロマンを追いたい方はご覧にならない方が良いかもしれません。

主演は真彩希帆さん

さて、本作品の主演は「1848」以来、2度目の青春アドベンチャー主演となる真彩希帆さん。
前作における真彩さんの演技は、夢見る少女ユリシュカが幾多の困難を経て成長していくのにあわせて演技が変化するのが聞きどころでした。
しかし、本作は登場人物の成長などがテーマではなく、特殊な状況に置かれたリリアナの心情表現が聞きどころです。
あくまで個人的にですが、真彩さんの繊細な演技は「1848」のような歴史の激動を表現する大きな話より、本作のような閉じた世界におけるリリカルな話の方があっているように感じました。
なお、このブログでは本作品を「歴史時代(海外)」に分類しているのですが、本作品はこの分類から想起されるイメージとはやや違う「閉じた世界」を舞台とした作品です。
ただそれを明示してしまうとネタバレに近い部分があるので敢えて「歴史時代(海外)」としています。
では本来どのジャンルとしたかったのか?
「幻想」?「伝奇」?「ホラー」?「SF」?、それとも…
それは聴いてのお楽しみです。

その他の出演者

その他、香寿たつきさん(元宝塚歌劇団星組トップスター)、桜一花さんといった宝塚卒業生、加藤和樹さん、鈴木壮麻さん、伊礼彼方さんといったミュージカル畑の俳優さんが多数出演する藤井靖さん演出作品らしい陣容です。


※2020/6/5追記
以下に脚本家の吉田小夏さんからご教示いただいた作品の舞台設定について転記します。
敢えて知りたくないという方はここで読むのを中断してください。
また繰り返しますが、作中登場する風土病キラミリアはあくまで架空の病気です。
舞台のモデルとなった地域に結び付けて考えるはやめて下さいね。


❶リリアナの故郷を当時のモルダヴィアのエリアの中のどこかとし、青髭の領地のある場所についてはあえてぼかして限定はしていないものの、隣接する国々(ワラキアもしくはトランシルヴァニアのあたり)を想起させる小国という想像で、土地のモデルとした。
❷モデルとなる地域には大小様々な川が存在しており、領地の境界線を川にすることはそこから着想した。
❸日本人にとっての梅のように、すもも(プラム)が食文化に浸透している描写や、菩提樹のお茶を常飲している描写、蜂蜜や花々に恵まれた土地柄などは、ルーマニアの食文化を参考にしている。
❹深い森の様子や吸血鬼伝説なども、現代でいうところの東欧ルーマニアを中心とした文化を下敷きにしている。


なお、以下のとおり吉田さんご自身のTwitterでも情報提供をされているようです。
追加の情報は直接、吉田さんのアカウントを確認すると良いかもしれません。
最後に、改めまして吉田さん、ありがとうございました。

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