- 作品 : あの夜が知っている
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA
- 分類 : サスペンス
- 初出 : 1994年8月15日~8月26日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : R・D・ツィマーマン
- 脚色 : 前田悠衣
- 演出 : 川口泰典、芦田健
- 主演 : 松本保典
シカゴ在住のウィルはドイツ・ベルリン生まれの40歳の男性。
10歳の頃に、第2次世界大戦末期のベルリンで母親を殺されたのだが、その前後の記憶が曖昧で、母親を殺した犯人を覚えていないことに長年苦しんできた。
ある時、ウィルは催眠療法で過去の記憶を呼び覚ますことを決意し、精神科医アリシアのもとを訪れる。
しかし、治療を始めた直後に彼の身辺で不審な出来事が起こり始める。
彼は命を狙われ始めたようなのだ。
母親が殺された、30年前のあの夜。
連合国軍の大空襲を受けていたベルリンで本当は何が起きていたのか。
そして、それはなぜ今でも隠されなければならないのか。
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R・D・ツィマーマン原作のサスペンス小説をラジオドラマ化した作品です。
「五番目のサリー」とは違う
主人公が精神科医の治療を受けながらストーリーが進んでいく様は、本作品の前年に放送された、同じ川口泰典さん演出の「五番目のサリー」と似ています。
しかし、「五番目のサリー」が治療自体がテーマの作品であるのに対して、本作品「あの夜が知っている」は、治療によって過去の出来事を追体験することによって、現在の謎が明らかになっていくあたりが聴き所であり、作品の性格はかなり違います。
舞台はほぼ過去
このストーリーのため、作品内の大半のシーンが過去を舞台としています。
治療中のウィルの目を通して、まるでタイムマシーンに乗って過去に行って見ているかのように過去の事実が少しずつリスナーに明かされていきます。
そして第9話まででウィルが10歳の時に起きたことが全て明らかになり、最終第10話では40歳のウィルが現在起きている事件と対決して終幕を迎えます。
自然なモノローグ
本作品はナレーションが少ない作品で、数少ない状況説明も主人公であるウィルのモノローグという形で処理されています。
ウィルは催眠療法の治療中という設定ですので、このモノローグは催眠療法で体験中の状況を精神科医のアリシアに伝える言葉とも取ることができます。
そのため、状況説明としてとても自然です。
このブログでは何度も書いているのですが、ラジオドラマにおいてナレーションは状況を説明するためにとても便利な道具であると同時に、使いすぎるとリズムを崩す原因ともなります。
その点で、本作品は設定を上手く使った効果的な状況説明方法だと思いました。
かの前田悠衣さん脚色
ちなみに本作品の脚本を書いているのは前田悠衣さん。
「わたしは真悟」、「悲しみの時計少女」、「五番目のサリー」、「サンタクロースが歌ってくれた」など、サウンド夢工房や青春アドベンチャー初期の多くの名作にメインキャストとして出演されていた元宝塚女優の前田悠衣さん、その人なのです。
女優が本職のハズですが、青春アドベンチャーの出演歴が長い前田さん。
さすがよくわかっているな、と思わせる脚本でした。
出演者⇒脚本家
なお、前田さんは青春アドベンチャーで計5作品(本作品、オズ、霧隠れ雲隠れ、秘密の友人、「優しすぎて、怖い」)を脚色されてます。
ちなみに、青春アドベンチャーでは「精霊の守り人」の丸尾聡さんなど、脚本家がちょい役で出演している作品が結構あります。
しかし、もともと役者として青春アドベンチャーに出演されていた方が、後にスタッフとして脚本を担当することはとてもレアです。
思いつくのは、前田さんの他には、中江有里さん(女優として「私の告白」に出演し、後に脚本家として「不思議屋不動産」・「インテリア・ライフ」に参加)くらいです。
前田さん、なかなか多芸な方ですね。
主演は松本保典さん
また、本作品で、もうひとつ特筆すべきは出演陣の演技です。
主人公のウィルを演じるのは松本保典さん。
多くのアニメ作品でも活躍されている立派なヒーロー声の持ち主です。
個人的に印象的なのはやはりNHKの「ふしぎの海のナディア」のエーコー・ウィランかな。
このエーコー、最初は名前すらない役だったのに、松本さんの熱演もあって最終的には主要キャラの一角にまで出世していました。
青春アドベンチャーでも「ランドオーヴァー」シリーズや「BANANA FISH」シリーズ(第2部・第3部)などこの番組を代表する作品に多数ご出演されています。
本作品では、40歳時点における“ウィル”を少し鬱屈した大人の声で、10歳時点の“ビリー”を幼い子供の声で演じわけられており、お見事です。
川口組の常連出演者たち
その他、女性陣は、アリシア役の弥生みつきさんのほか、エーファ役の春風ひとみさん、ローレ・マリー役のあづみれいかさん、エーリッヒ役の華村りこさんと、川口泰典演出作品らしい、宝塚出身女優さん達のオンパレード。
その他の出演者も劇団「夢の遊民社」の看板俳優だった浅野和之さん(ジョー役)、これまたアニメではかなり有名な井上和彦さん(アントン役)など、考えてみると、色々なジャンルの方がご出演されており、結構豪華ですね。
古澤徹さん熱演
そして、これらの出演者さんにも増して忘れてはならないのが、ハインリッヒ役の古澤徹さん。
青春アドベンチャーでは常連の出演者さんで、普段は主人公サイドの常識的な人物を演じている印象が強いのですが、本作品ではナチス側のハインリッヒを実に気持ち悪く演じています。
本作品の終盤は、四方を連合国軍に囲まれて陥落寸前のベルリンが舞台になるため、かなり凄惨な内容になっていくのですが、その荒んだ雰囲気に古澤さんの怪演がとてもマッチしています。
「普段、主役サイドを演じる役者さんの怪演」といえば、「ブラジルから来た少年」の海津義孝さんや「ゼンダ城の虜~完結編・ヘンツォ伯爵」の内田健介さんが思い起こされるのですが、本作品の古澤さんもそれに優るとも劣らない演技だと思います。
「アナスタシア・シンドローム」とも違う
なお、本作品は多くの名作を担当された川口泰典さんの演出なのですが、実は本作品の次に放送された「アナスタシア・シンドローム」も川口さん演出で、しかも催眠治療により過去の記憶を探るという点で類似性のある作品でした。
両作品とも出来は上々ですので、比べて見るとなかなか面白いものがあります。
【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらをご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。
【近代から現代にかけてのアメリカ合衆国を舞台にした作品】
第1次世界大戦後に完全にイギリスから覇権国家の座を奪い取ったアメリカ合衆国。
その発展期から現代までを舞台にした作品の一覧はこちらです。
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