優しすぎて、怖い 原作:ジョイ・フィールディング(青春アドベンチャー)

格付:AAA
  • 作品 : 優しすぎて、怖い
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AAA-
  • 分類 : サスペンス
  • 初出 : 1995年8月14日~8月25日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : ジョイ・フィールディング
  • 脚色 : 前田悠衣
  • 演出 : 芦田健、川口泰典
  • 主演 : 毬藻えり

ふと気が付くと交差点に立っていた。
わたしは…誰?
何も思い出せない。
いえ、今いる場所はわかるわ。
でも、自分のことは何ひとつ思い出せない。
それに…コートを脱いだら下の服が血だらけなのはなぜ?
しかもポケットには100ドル札の束が…1万ドルも。
わたしは何者なの?
いったい何をやったというの!



原作者はカナダの女流作家

本作品「優しすぎて、怖い」は、カナダの女流作家ジョイ・フィールディングが書いた同名のサスペンス小説(日本では文春文庫から刊)を原作とするラジオドラマです。
原作者が女性なら、主人公も女性。
もちろん主演も女性ですし、ついでいえば脚本家の前田悠衣さんも女性。
演出の芦田健さん、川口泰典さんのコンビは男性ですけどね。

毬藻えりさんの魅力全開

何はともあれ、このような「女性成分」多めの本作品のなかでも、あえて言うのであれば、本作品はやはり「毬藻えりさんによる毬藻えりさんのための作品」。
元宝塚女優を多用した川口泰典さんの演出作品らしく、毬藻さんも元宝塚歌劇団・星組のトップ娘役です。
ベルサイユのばら外伝」、「ランドオーヴァーシリーズ」、「盗まれた街」、「アリアドニの遁走曲」など他の多くの川口作品に出演された毬藻さんですが、青春アドベンチャーでの主演は恐らくこの「優しすぎて、怖い」だけではないでしょうか。
しかも単に主役というだけではなく、この作品は毬藻さん演じるジェーンのモノローグが非常に多く、例えば第1回前半はほとんど毬藻さんの独演とも言ってよい状態。
もともと感情の起伏が激しく、しかも劇中、終始不安な状況が続くジェーンの演技を、毬藻さんが八面六臂で演じていらっしゃいます。

主人公もリスナーも状況不明

さて、本作品は記憶喪失の女性ジェーンを巡るサスペンス作品です。
自分を取り巻く状況が全く分からず不安におびえるジェーンですが、状況が全くわからないのはリスナーも同じ。
割とすぐに、夫だという男性マイケルが名乗り出るものの、彼を信じてよいのかわからないジェーン。
と、同時にリスナーもジェーンの感じる「疑惑」を信じるべきか、マイケルの「説明」を信じるべきか、判断がつかない状態がほぼ第6回まで続きます。
「やっぱり主人公の考えていることが正しいんだろう」と思う反面、「主人公の考えはすべてが妄想という結末もありうるぞ」(あの作品(ネタバレ注意)が割とそんな感じでしたしね)とも思えますし、「『信頼できない語り手』(地の文になっているモノローグ自体に読者をミスリードする嘘がある作品形態)の可能性もあるしなあ」となかなか楽しめるサスペンスでした。

脚本家・前田悠衣

この辺は脚本の前田悠衣さんの功績も大きいと思います。
前田さんもまた元宝塚の女優さんで、出演者としては「わたしは真悟」や「アナスタシア・シンドローム」で主演されていますが、一方、5作品で脚本も書かれています。
青春アドベンチャー(アドベンチャーロード含む)で主演と脚本・脚色の両方の経験があるのは、中江有里さん(「私の告白」と「インテリア・ライフ」など)、佃典彦さん(「せいけつ教育委員会ホイホイ」などと「新・動物園物語」など)と、前田悠衣さんくらいだと思います。
前田さんの5本の脚色作の中でも、本作品は一番最後の作品。
正直、一番最初の「OZ(オズ)」はいまいちだと思いましたが、この作品はなかなか見事な脚色です。

伏線のわかり安さは大切

脚色といえば、改めて考えると真相につながる伏線(マイケルの職業とか、ジェーンのクローゼットの中身とか、患者の態度とか)がちゃんと張ってあるんですよね、この作品。
聴いていてちょっとひっかかるくらいの目立ち方で伏線を張っているのが絶妙。
本当にうまく隠してしまうと、部分的な聞き逃しの可能性が常にあるラジオドラマでは全く伏線にならなくなってしまう可能性を計算のうえ、少しわかりやすく張っているのだと思います。
この辺、ラジオドラマ慣れした前田さんならではと感じます。
個人的にも薄々は気が付いていましたが、あまりにも「アレ」な真相なので、まさかとも思っていたのが実際のところです。
本作品の放送された1995年から20年たっているわけですが、今聞くと放送当時以上に過激な内容のように思います。
ただ、本作品、謎解きメインのサスペンス作品という性格上、何度も楽しめる作品かというとやや微妙なのも確かだと思います。
これは原作者や脚本家の責任ではないのですけど。

いつもとちょっと違う配役

さて、話を出演者に移しますと、主演の毬藻えりさんの熱演については既に述べたとおりですが、マイケルを演じた古澤徹さんの演技も印象的。
本作品の古澤さんは、まさに「アメリカのホームドラマにでてくるハンサムな夫」を声だけで表現したかのような「好青年声」です。
本作ではそれだけではなく後半の激しいシーンなどもあり、聴きどころが多いです。
また、青春アドベンチャーでは、「わたしは真悟」の悟(さとる)や「BANANA・FISH パート2」のシン・スウ・リンなどといった少年役の印象が定着している「あづみれいか」さんが、普通の中年女性役をしているのが妙に印象的。
毬藻さんや古澤さんもそうなのですが、「青春アドベンチャーでのいつもの役」とは少しだけズラした感じなのが、本作品における配役の面白いところだと思います。


【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。こちらをご覧ください。傑作がたくさんありますよ。


【近代から現代にかけてのアメリカ合衆国を舞台にした作品】
第1次世界大戦後に完全にイギリスから覇権国家の座を奪い取ったアメリカ合衆国。
その発展期から現代までを舞台にした作品の一覧はこちらです。


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