- 作品 : プラハの春
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA
- 分類 : 歴史時代(海外)
- 初出 : 2006年4月3日~4月21日
- 回数 : 全15回(各回15分)
- 原作 : 春江一也
- 脚色 : 谷登志雄
- 演出 : 小林武
- 主演 : 高橋和也
1967年、チェコスロバキア社会主義共和国。
在チェコスロバキア日本大使館に勤務する27歳の若き外交官・堀江亮介は、休暇で赴いたウィーンからプラハに戻る途中の路上で、カテリーナとシルビアという東ドイツ人の母娘と出会う。
折しも「プラハの春」と呼ばれることになる改革運動の最中にあったチェコスロバキアで、西側・東側という政治的立場を越えて、惹かれあっていく亮介とカテリーナ。
しかしやがて、国内の改革派の勢いは急拡大し、東側諸国はチェコスロバキアの改革を危険視し始める。
そして、歴史の歯車は、ふたりの運命をも巻き込んでいくのであった。
後の世に「プラハの春」と呼ばれることになる民主化運動の隆盛と挫折を、若き外交官の愛と別離を交えて描く。
本作品「プラハの春」は、その名のとおり1960年代末にチェコスロバキアで起きた有名な改革運動(プラハの春)とそれを弾圧した軍事介入(チェコ事件)を背景とした作品です。
堀江=春江?
この作品の原作小説を書いた春江一也さんは、元々、本職の外交官で、「プラハの春」の時に実際に在チェコスロバキア大使館に勤務されていたのだそうです。
春江さんは1936年生まれですので、「プラハの春」の時点では31歳くらいであり、主人公ヘル堀江こと堀江亮介(27歳)とほぼ同年代の設定です(ヘルHerrとは英語のMrに相当する敬称)。
そういえば「春江」と「堀江」、名前もちょっと似ています。
堀江≒春江
本作品はあくまでフィクションですが、「堀江」は作者の分身的な存在であり、「春江」さんが実際に見た当時の景色、人々がモデルとなっていることは間違いないでしょう。
そういえば作中の堀江は「起こった出来事をできるだけ正確に多くの人に伝える。そしてプラハの人々の思いは死んも忘れない。」といっています。
この作品自体が、その堀江の思いの結晶なのかも知れませんね。
ただし、本作品のようなロマンスがあったかはわかりませんが。
日常?ラブロマンス
ちなみに本ブログにおいてこの作品をどのジャンルに分類するかは相当迷いました。
基本的に実際に起こった歴史的事実を背景にしており、SF的な事件やファンタジックな出来事は何も起こりません。
また、主人公・堀江はあくまで歴史の流れに対して受動的であり、彼の行動が歴史を動かすことは決してありません。
かといって「日常」ジャンルでないことは明らかです。
一方、ラブロマンスの要素が強いことは確かですが、本作品におけるラブロマンスの位置づけは「プラハの春」の悲劇性を個人レベルに置き換えて具体化するための手段に過ぎないとも言えます。
サスペンス?歴史時代?
敢えていうなら「サスペンス」か、とも思いましたが、起こる出来事の大きな流れは視聴者には周知であり、「サスペンス」という言葉から想起される、先の展開が読めないドキドキ感とは少し違います。
そこで、迷った末に「歴史時代」としてみました。
舞台は50年前だが「歴史もの」
実際聴いていると、大使館の現地スタッフはすべてチェコ政府から派遣される、とかちょっとした歴史トリビアもあったりして意外と悪くない分類のような気もしてきました。
通常このブログでは、中世以前を舞台としている作品を「歴史時代」に分類しています。
しかし、この記事を書いている時点で「プラハの春」は既に50年近く前、本作品が放送された時点でも40年近く前の出来事でしたし、「プラハの春」はすでに歴史的な重みのある事実となっていると考えます。
また、何より本作品は「プラハの春」(チェコ事件)という重い出来事がストーリーの根幹を形作っている作品です。
そのため例外的ではあるのですが、このような扱いとしてみました。
大人向けの作品
さて、ここまで作品内容はあまり書かずに来たのですが、はっきり言って「プラハの春」や「チェコ事件」をご存じの方であれば、冒頭の紹介だけで大体のストーリーの顛末は想像できると思います。
だからストーリーはこれ以上紹介しませんが、一言で言ってとても大人向きの作品です。
2015年現在の、良くも悪くも若年層向きの作品の割合が非常に高くなってしまった青春アドベンチャーを見ているとちょっと想像できないのですが、2006年は本作品の他にも、続編の「ベルリンの秋」や、広告業界の内幕(?)を描いた逢坂剛さん原作の「あでやかな落日」といった明らかに対象年齢が上の作品が制作されました。
2006年もまた「プラハの春」
また他にも、原作より先までストーリーを進めてしまった「垂直の記憶」、児童文学の傑作として名高い「精霊の守り人」、数少ないハードSF作品「太陽の簒奪者」、極めて珍しい岡山局制作の青春アドベンチャー「風になった男」、超大作の完結編「おいしいコーヒーのいれ方Ⅹ~夢のあとさき」、森繁久弥さんが出演された「ドラマ古事記~神代篇」などバラエティーに富んだ、それでいてレベルの高い作品が放送された年です。
私の中では「青春アドベンチャーの中の『アドベンチャーロード年』」だと思っています。
いえ、翌2007年からまた元の路線に戻ってしまったことを考えると、この2006年は青春アドベンチャーの「プラハの春」だったのかも知れません(我ながら上手い!)
高橋和也さんはどれも好演
しかし、この2006年の作品群のなかでも本作品の渋さは際立っています。
この渋さの最大の原因となっているのが主人公の堀江亮介を演じた高橋和也さんの声と演技でしょう。
高橋さんは1969年5月生まれですので、放送時点で36歳。
堀江以上の実年齢だと言うこともありますが、声が少ししゃがれているので、とても落ち着いて聞こえます。
高橋さんは元ジャニーズアイドル(男闘呼組)で、NHK関連ではイ・ビョンホンの吹き替えでも有名ですが、青春アドベンチャーでも複数の作品において重要な役で出演されています。
声の出演歴
例えばスタンダール原作の「赤と黒」のジュリアン、例えば梨木香歩さん原作の「家守綺譚」の綿貫、例えばセバスチャン・フィツェック原作の「ラジオ・キラー」のヤン、そして本シリーズの堀江。
FMシアターの「飛ばせハイウェイ、飛ばせ人生」もいい作品だった。
ヤン以外は主役であるだけでなく、いずれの役もとてもいい役で、高橋さん、NHKオーディオドラマスタッフに愛されているなあ、と感じます。
そしていずれの作品でも高橋さんもその期待に応えて充実した演技をされていると思います。
この信頼関係と相乗効果が高橋さん出演作品からハズレをなくしているのでしょう。
東欧ヒロインの魅力
一方、ヒロインのカテリーナを演じている若村麻由美さんも素晴らしい。
1987年下期のNHK朝の連続テレビ小説「はっさい先生」で主役を演じた若村さんですが、本作品では実年齢より少しだけ上のカテリーナ(でもちゃんと高橋さんより年上)を演じており、とても魅力的です。
惚れちゃうよね、わかるよ、堀江。
そして、カテリーナの12歳の娘のシルビアを演じる後藤果萌さん(当時シルビアと同じ12歳!)がまた可憐なのですよ、これが。
このシルビア、続編の「ベルリンの秋」では高橋かおりさんが演じることになり、こちらこちらで良いのですが、本作品の後藤さんの演技もいじらしい。
え?お前は年上が好きなのかと年下が好きなのかはっきりしろ?
それはそれ、これはこれ、ですよ!
それにしても「A-10奪還チーム出動せよ」にせよ「黄昏のベルリン」にせよ東欧の女性って魅力的ですよね。
他のキャストも素晴らしい
また、カテリーナを執拗に付け回すゲス中佐…じゃなかった、ヘス中佐を演じる上杉祥三さんの演技はとっても気持ち悪いし、カテリーナの(元)夫で国家治安庁の幹部だけどとってもいい人であるラインハルト・シュナイダー局長を演じる大友龍三郎さん(「封神演義」の聞仲)は相変わらずいい声しています。
いい声といえば、ハベル大統領とドプチェフ第一書記の二役を演じるのは「脱獄山脈」やクロスオーバーイレブンも懐かしい津嘉山正種さん。
本当にいい声しています。
このハベル大統領とドプチェフ第一書記って本当に出番少ないのですけど、わざわざ津嘉山さんを連れてくるあたりにスタッフの意気込みを感じます。
スタッフ紹介
最後に本作品のスタッフですが、脚色は名作「ジャガーになった男」や「失われた地平線」が印象的な谷登志雄さんで、演出が「あでやかな落日」や「闘う女。」などの大人向けの作品ばかりを制作している小林武さん。
その他、熟練のスタッフが12世紀の石畳が残るロマンチックなプラハの雰囲気をうまく再現しています。
また、作品の舞台となるカレル大学を卒業されているダニエラ・立古(りゅうご)先生(この記事を書いた時点では東京外国語大学の非常勤講師をされているようです)による「外国語指導」が入っているのがNHKらしいところですね。
コメント
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原作は好きでした、ラジオドラマになっていたのを、今更に知りました。紹介ありがとうございます。
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コメント、ありがとうございます。
ラジオドラマ版も、若年層向きの作品が多いこの枠では例外的な大人向けの作品でなかなか出来です。
是非一度ご視聴下さい、といいたいところですが気軽に再視聴できる環境にないことが残念なところです。
「プラハの春」といい「赤と黒」といい、「家守綺譚」といい、一連の高橋和也さん主演作はどれも良い出来なのですが。
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プラハの春
とても素晴らしくて、一気に聴き入ってしまいました。若村まゆみさんの声はイメージが、豊かになりました。
偶然にユーチューブで見つけました。もっとどれもいつでも聞けるといいのに
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コメントありがとうございます。
「プラハの春」が素晴らしければ素晴らしいほど「ベルリンの秋」が残念に感じます。
音源はきちんと公式で聴けるようにして欲しいですね。