【特集:お勧め作品12】村上真裕「チキン」
主にNHK-FMの「青春アドベンチャー」という番組で放送されたラジオドラマ作品を紹介していく、このブログ。
その中でも、この「お勧め作品」のコーナーは、既に放送されたラジオドラマ作品を紹介するのではなく、これからラジオドラマ化して欲しいと思った小説や漫画などを紹介するコーナーです。
すなわち、ラジオドラマ作品の紹介ブログでありながらラジオドラマになっていない作品を紹介するという異端のコーナー。
それって単に自分が好きな小説や漫画を紹介しているだけなんじゃないの?という声も聞こえてくる気がしますが、そんなこともないんですよ。
例えば、最近最も衝撃を受けた(?)漫画は、藤本正二さんの「終電ちゃん」(読み切り版)なのですが、このコーナーで「終電ちゃん」を紹介する気はありません。
「終電ちゃん」(読み切り版)の冒頭2頁(あるいは単行本1巻)の「衝撃」は、やはり絵がないと伝わらないですからね。
さて、脇道はこのくらいにして、早速、村上真裕さんのボクシング漫画「チキン」のご紹介です。
なぜかボクシングものがない
2016年の青春アドベンチャーでは寝技中心の「七帝柔道」をテーマにした「七帝柔道記」が放送されたわけですが、青春アドベンチャー四半世紀の中では、何度も格闘技が登場する作品が取り上げられています。
プロレスそのものが重要な要素となる「ハリーとアキラ」と「1985年のクラッシュ・ギャルズ」。
青春のモヤモヤが主要テーマではありますがアマレスが登場する「フルネルソン」。
剣道とフェンシングの双方を取り上げた「ふたつの剣」。
普通の女性がプロのキックボクサーになって行く姿を描いた「闘う女。~そんな私のこんな生き方~」。
色々な格闘技ものをラジオドラマにしている青春アドベンチャーですが、最もメジャーな格闘技の一つであるプロボクシングを扱った作品はまだ1作品もありません(なぜか文芸色の強いFMシアターでなら、最近、ボクシングがテーマの「ファイティング40、ママはチャンピオン」が制作されたのですが)。
1巻だけの幻の傑作?
ボクシングを扱った作品としては、漫画であれば「あしたのジョー」や「がんばれ元気」のような古典的名作が知られていますし、最近では、一向に終わる様子を見せない超長期連載作品の「はじめの一歩」などが有名です。
しかし、この「チキン」を知っている人は少ないのではないでしょうか。
単行本は2001年に発刊された「1巻」だけ。
これ堂々と“vol.1”と書いてあるけど2巻以降が発売される気配は一切なし。
まあ、いいんです、一応この1巻だけで、ある程度、話は完結しているので。
そう、そのくらい過去においても現在においてもマイナーな作品です。
マイナーである最大の原因は絵。
異常な迫力があることは確かですが、はっきりいってかなり荒れた絵柄で、もうぶっちゃけて言うと「汚い」絵です。
ゼロKOチャンピオン
そして話もぶっ飛んでいる。
主人のプロボクサー城島は、7度も防衛している世界チャンピオンでありながら、プロ入り以降、KO勝ちが一つもないという異常な戦績。
それもそのはず、彼は蠅も殺せないへなちょこパンチしか打たないのです。
そんな彼がチャンピオンでいられる最大の理由は、神業的なディフェンス技術を持っていること。
そのディフェンス技術で逃げて逃げて逃げまくり、全く威力のないパンチをペチペチと当ててポイントを稼ぎ、判定勝ちで防衛する。
そのファイトスタイルこそが彼が「チキン」(=臆病者)と呼ばれる所以。
しかも、彼は試合中に観客に暴言を吐き、爽快なKOシーンを期待していた観客の感情を逆なでするなど性格にも問題あり。
当然そんなボクサーに人気がでるわけもなく、彼はチャンピオンなのに敵地でばかり試合をする羽目に陥っています。
なぜ彼は「チキン」になったのか
そんな彼が敵地インド出迎えた8度目の防衛線(挑戦者:バズゥ・スマトラ)が作品の舞台です。
丸1巻を掛け、この1試合が描かれるのですが、時々過去のシーンが挟まることにより、試合の進行と並行して、城島がなぜ「チキン」になったのかが徐々に明らかになっていきます。
最初は単なる臆病者と思われていた彼ですが、実は「殴らないのではなく、殴れない」、すなわち自分が傷つくのが怖いだけではなく相手を傷つけることすら怖がってしまう本物のチキンなのではないか、という推測がなされるのですが…
真の理由は最後のお楽しみ
ここから先を書くのは野暮というもの。
是非どこかで原作本を探して城島の「正体」に触れていただきたいものです。
少しだけぼかして書くと「がんばれ元気」を逆にしたような構図の中で、一種の人情もの的な真相が明らかにされます。
しかし、それはそれで感動的ではあるのですが、この作品のすばらしいところはそれに終わらないこと。
城島の「チキン」の真相は、この人情もの、自己犠牲的な結論からさらに1回転して別の結論にたどり着きます。
決して生き方を他人に委ねないこの真相こそが、この絵柄も展開も濃すぎてグチャグチャな作品を、爽やかな読後感の良作に昇華している最大の原因だと思います。
機会があれば
是非、原作をお読みいただきたいところです。
そしてそれにもまして、本作最大の欠点である「絵の雑さ」はラジオドラマであれば全く負の要素にはならないことに注目していただきたい。
全5回くらいにギュッと縮めた締まった脚本のもと、ど派手な音響効果と劇伴と、そして声優さんの過剰な演技で彩られたラジオドラマ版「チキン」を是非とも聴いてみたいものです。
ところでこの記事で紹介したのは村上真裕さんのボクシング漫画の「チキン」です。
類似の名前のヤンキー漫画とは一切関係ありません…って、似たようなことをどこかで書いたことがあるような、ないような…
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私やリスナーの皆さんが自信を持ってお勧めする作品たち。
小説や漫画など色々な作品があります。
是非ご覧ください。
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