逢沢りく 原作:ほしよりこ(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 逢沢りく
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A
  • 分類 : 少年(中高)
  • 初出 : 2016年5月2日~5月13日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : ほしよりこ
  • 脚色 : 前田司郎
  • 演出 : 小野見知
  • 主演 : 恒松祐里

私は他の女の子たちとは違う。
勉強はできるし、人の気持ちもわかる。
友達からは「モデルになればいい」なんて言われる。
他の子たちより一段高い位置にいるのが当たり前だったし、これからもそうだろう。
家族だって完璧。
社長をしている素敵なパパと、料理上手で完璧主義のママ。
だから、「あの、手のかかる」ママが私に何をして欲しいかは手に取るようにわかるし、パパが会社の女の人と浮気をしていても別に悲しくはない。
勘違いしないでほしい。私はまるで蛇口をひねるかのように涙をこぼすことができる。
でも、私には「悲しみ」が何だかはさっぱり理解できない。



いやー、名古屋局ですな。まさにNHK名古屋局。
本ラジオドラマ「逢沢りく」を聴いた第一印象はやっぱりそのようなものでした。

名古屋局作品に共通

名古屋局といえば青春アドベンチャーでもっとも早くオリジナル脚本のオムニバスラジオドラマ(10人作家シリーズ)を制作した局。
難解でアンニョイな作品のオンパレードだった「10人作家シリーズ」ですが、名古屋局独特の雰囲気はオムニバス作品にとどまりません。
オーバー・ザ・ハポン~空の彼方(かなた)へ」といったオリジナル長編や、「レッドレイン」や「カモメに飛ぶことを教えた猫」といった原作付の作品まで、すべて静謐でリリカルな雰囲気で一致しています。
これはもう演出家だけの問題ではなく、技術や音響効果のスタッフを含めた名古屋局の伝統なのだと思います。

「きょうの猫村さん」の作者

さて、その名古屋局が今年、青春アドベンチャー用に選んだ原作は、ほしよりこさんの漫画作品「逢沢りく」。
ほしよりこさんと言って分からなければ「きょうの猫村さん」を書いた方、といった方がわかり安いのではないでしょうか。
そうです、あの鉛筆でさささっと書いたような不思議な漫画を描く方です。
名古屋局は2014年にも業田良家さんという随分とマニアックな漫画家さんの作品(機械仕掛けの愛)を取り上げていますが、今回も随分と先端を狙った作品選択ですね。

イタイぞ、りく、そしてその母

それにしても、私は原作漫画「逢沢りく」を読んだことがなく、「きょうの猫村さん」を少し読んだことがある程度なのですが、原作もこんなに内向きでウエットな作品なのでしょうか。
りくの内心の葛藤、独善的な(本人は全く独善的とは思っていない)感じ方、そして本人はうまく演じているつもりで全然うまく対応できていな様がイタい。
同じ独善的でイタい少女であっても「アグリーガール」のアーシュラと比較すると、あまりに彼女の中の正しさの基準となっている世界が狭すぎる。
いくらなんでも、泣けば学校をさぼれるとか、安易すぎます。
また、りくの母親が、またもう…
りくの痛さをこじらせたまま大人になってしまったようで、もう聴いていられないくらいです。
まあ、「母親=大人」とは限らないのは世の現実ではありますが…
とにかく、結果として爽快さがありません。

その他も色々ときつい

そして関西人のおばさんたちの言動が違う意味でこれまたイタい。
実際、関西に限らず、首都圏近郊でも、一生生まれた土地を離れない人たちを見ているとよく感じられるウザったさではあるのですが、関西ということで極端にデフォルメされており、根無し草の私などは聴いていて、やはり不快感が先に立ちます。
そして最後にダメ押しなのが、泣かせどころに子供を使うストーリー展開。
「泣き」の演技自体は見事の一言で、主演の恒松さんの本領発揮なのでしょうが、やはり「子供と動物」を泣かせどころで使うのは、エンターテイメント作品としては反則のように感じました。
これではもうほとんど「FMシアター」枠の作品のようです。
原作がもともとこうだったのか、名古屋局ならではの演出でこうなったのか。

不快感も魅力に?

…などと、ここまで書くと作品を気に入らなかったと思われるかもしれませんが、格付けを見て分かる通り、最後まで聞いた感触は決して悪くはありませんでした。
心がざわざわとする不快感も、ある意味、この作品の魅力であり、これはこれで貫いているところは見事なのですが、「きょうの猫村さん」からはもう少し乾いた感じを受けました。
あらためて原作も読んでみたいと思います。

期待の若手女優

さて、主演は、第*回の長い「泣き」の演技が印象的な恒松祐里(つねまつ・ゆり)さん。
若干17歳の期待の若手女優・恒松祐里さんですが、2013年、当時14歳の時に、明石家さんまさんがTVで10人の好きな女性を選ぶ企画で第6位に選ばれて話題になった方なのだそうです。
すでに朝ドラ(連続テレビ小説)を始めとする多くのTVドラマ・映画に出演経験があるそうですが、主演はまだあまりなさそうです。
現在、放送中の朝ドラ「とと姉ちゃん」に主演されている高畑充希さんも、2011年に青春アドベンチャー「鏡の偽乙女~薄紅雪華紋様」に出演経験があります。
恒松さんにも是非、大きく羽ばたいていただきたいものです。

SKE48メンバーが4人も出演

また、本作品は名古屋局の制作ということもあってか、名古屋を本拠地として活動するアイドルグループ・SKE48のメンバー、研究生が参加されています。
参加されているのは、チームSの野島樺乃さん、チームKⅡの髙塚夏生さん、チームEの髙寺沙菜さんと研究生の町音葉さん。
野島樺乃さんと町音葉さんは主に序盤の東京パートを中心に、髙塚夏生さんと髙寺沙菜さんは主に後半の大阪パートを中心に出演されました。
町さんは後半にも出番が多かったかな。

積極性は買いたい

NHK-FMには「AKB48の“私たちの物語”」というAKB48グループの専門ラジオドラマ番組があるのですが、敢えて青春アドベンチャーに出演されたことに好感が持てます。
髙塚夏生さんのブログによればオーディションで勝ち取った役とか。
こちらも来年の名古屋局作品の主演になられる方が出てきたりすれば面白いですね。
なお、本作品のほか、SKEのメンバーとしては市野成美さんがFMシアターの「唄娘」に出演されています。

<髙塚夏生さんのブログ(登録しないと見られないようです)>
http://www2.ske48.co.jp/blog/detail/id:20160309222714553

フレッシュな制作陣

なお、スタッフは脚色:前田司郎さん、演出:小野見知さんのコンビ。
おふたりとも青春アドベンチャーは初挑戦だと思います。
前田司郎さんは劇団「五反田団」を主宰する劇作家、演出家、俳優の方。
2007年に「愛でもない青春でもない旅立たない」で芥川賞の候補になったほか、2009年には小説「夏の水の半魚人」で三島由紀夫賞を、2015年にはNHKドラマ「徒歩7分」の脚本で向田邦子賞を受賞されています。
演出の小野見知さんも青春アドベンチャーは初めてですが、FMシアター枠では、名脚本家・木皿泉さんと組んで松山局制作で「LET IT PON!~それでええんんよ」(2012年)・「どこかで家族」(2014年)を演出されています。
特に後者はギャラクシー賞を受賞されているそうです。
なかなか強力な組み合わせです。

補足:
2016年末に人気投票を行ったところ、みごと、この「逢沢りく」が一番の得票を得ました。
詳細はこちらをご参照ください。


(補足)
2020年12月30日の「一日で聴く青春アドベンチャー」において「暁のハルモニア」、「ウィッグ取ったらただの人」と一緒に再放送されました。




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