- 作品 : イズァローン伝説
- 番組 : ダミーヘッド・アドベンチャー
- 格付 : C
- 分類 : 異世界
- 初出 : 1994年1月2日
- 回数 : 全1回(120分)
- 原作 : 竹宮恵子
- 脚色 : 前田悠衣
- 演出 : 川口泰典
- 主演 : ありす未来
これは、人と自然がまだ分かたれず、神秘が生活とともにあった頃の物語。
人々は樹海の中に埋没する小さな国々に分かれて暮らしを営んでいた。
その中のひとつ、イズァローン王国。
この国の人間は、男女どちらでもない両性体として生を受け、成人するまでに自然に男女に分かれていくという不思議な体質を持っていた。
そんな王国に生まれたふたりの王子、王の実子ティオキアと亡くなった兄王の息子ルキシュ。
お互いを尊重し、良好な関係を保っていたふたりだが、年長のルキシュが男性となり、そして初陣を飾る頃から、ふたりの関係には微妙な変化が生じ始めた。
本作品「イズァローン伝説」は著名な少女漫画家である竹宮恵子さんの漫画を原作とするラジオドラマです。
竹宮さんは、代表作である「地球(テラ)へ…」や、青春アドベンチャーでラジオドラマ化もされた「エデン2185」など、萩尾望都さんと並び少女マンガ界のSFの大家というイメージが強い方です。
ただし、竹宮さんのもうひとつの代表作とされる「風と木の歌」は耽美的な少年愛を扱った作品ですし、「そっち方面」の雑誌「JUNE」にも初期から積極的に参加していたという経歴からもわかるとおり「そっち方面」でも有名な方でもあります。
そっち方面の匂いはあまりしない
本作品も上記の粗筋だけ読むと、今風の「異世界ファンタジー」のように見えますが、「生まれたときは両性体」という設定あたりに、(これも今風に言うと)濃厚な「腐」のにおいを感じますね。
ただし、本ラジオドラマは、同様にNHK-FMでラジオドラマ化された萩尾さんの「マージナル」と比較すると、耽美な雰囲気は希薄です。
よく聞いていると、序盤のティオキアとルキシュとの関係や、終盤のティオキアと側近カウス・レーゼンとの関係は、かなりの「やおい」なのですが、物語全体を見ると何となく「冒険もの」的で健全。
この辺は、演じている松本保典さん(ルキシュ)や吉田鋼太郎さん(カウス・レーゼン)の声があくまでヒロイックで湿っぽくないからなのか。
あるいは演出家の違い(「マージナル」…小木哲郎さん、「イズァローン伝説」…川口泰典さん)なのかもしれませんね。
王宮劇→ファンタジー
さて、本作品、序盤はふたりの王子を中心にした王宮劇または陰謀ものと思わせる展開で、ティオキアサイドとルキシュサイドに分かれて事態が進展していきます。
しかし、中盤から「魔」に取りつかれたティオキア側を中心に、ファンタジー要素が強まっていき、物語は大きく変容していきます。
それもそのはず。
本作品の原作は文庫版で8巻のボリュームで、ストーリーはたっぷり用意されていたのです。
120分の限界
このラジオドラマも1回120分とNHK-FMの単発ドラマではかなり長めの作品で、通常の青春アドベンチャー(15分×10回)に劣らないボリュームではあるのですが、いかんせん枠が窮屈すぎる。
脚色は青春アドベンチャーの「オズ」に続いて2作目の担当となる前田悠衣さんなのですが、正直言って、印象的なエピソードとエピソードを駆け足でつないでいっているだけで、ストーリーを追うのにいっぱいいっぱいのように感じました。
ラジオドラマ化、特に漫画のラジオドラマ化は原作の要素の取捨選択が特に重要だと思います。
「悲しみの時計少女」、「わたしは真悟」など多くの出演歴のある前田さんが脚色で本領を発揮されるのは、この次の「霧隠れ雲隠れ」以降になります。
主演はありす未来さん
さて、出演者に話を映しますと、まず主役のティオキア役を元宝塚女優の「ありす未来」さんが演じています。
演出の川口泰典さんは、宝塚出身の女優さんを多用した方で、本作にも出演されている大輝ゆうさん、前田悠衣さん、仁科有理さんなどは他の作品にもたくさん出演されているのですが、「ありす未来」さんは他の作品ではお見かけしないのがちょっと不思議です。
男性陣は主演経験者がづらり
一方の男性陣も、上記の松本保典さん(あの夜が知っている)、吉田鋼太郎さん(ブラジルから来た少年)のほかに、海津義孝さん(ジュラシック・パーク)など、他の傑作川口作品で主演されてきた方が揃い踏み。
…なのにこの作品が微妙に盛り上がりに欠けるのはなぜでしょう?
アニメ「アルスラーン戦記」(1991年~1995年版。荒川弘さんの絵はどうもなじめない…)の音楽は良くはまっているんですけどね。
無理にファンタジーを採用しなくても
そういえば、本作品と同じような日本人原作の異世界ファンタジー「ダーク・ウィザード~蘇りし闇の魔導士~」もイマイチでした。
やはり川口さんはサスペンスものや、エンタメ色の強いSFが一番。
大変失礼ながら、異世界ファンタジー作品の採用は、ダミーヘッド(バイノーラル録音)にあう作品ということに少し拘りすぎていたようにも感じます。
【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。こちらをご覧ください。傑作がたくさんありますよ。
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