1492年のマリア 原作:西垣通(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : 1492年のマリア
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA-
  • 分類 : 歴史時代(海外)
  • 初出 : 2016年6月27日~7月8日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 西垣通
  • 脚色 : 古川健
  • 音楽 : 山下康介
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 中川晃教

1492年。
レコンキスタ完遂に沸き立つスペインでは、力と恐怖で異教徒に改宗を迫る動きが広がっていた。
港町セビリアに住むアロンソ・デ・トーラスは冒険を夢見る若き航海士。
しかし、ユダヤ人を祖先に持つ改宗キリスト教徒という自らの出自を思うと、スペインを覆う不穏な雰囲気に神経質にならざるを得ない。
そんなある日、アロンソは、尊敬する船乗りクリストバル・コロンから、100年以上前のマジョルカ島の宗教家ルルスの思想を教えられる。
キリスト教、イスラム教、ユダヤ教が共存した当時のマジョルカ島で、異教徒の文化に配慮した融和的な伝道を志したルルスの教えが胸に響いたアロンソは、伝道と冒険航海の両立こそが自らの生涯と信じ、コロンの西回りインド航路開拓に同行することを決意する。
しかし、アロンソの冒険の旅の前には大きな障害が立ちはだかるのだった。



前東京大学大学院情報学環教授で、現東京経済大学教授の西垣通さん原作の同名の小説「1492年のマリア」を原作とするラジオドラマです。
西垣さんはOSやネットワークなどを研究する理系の研究者(工学博士)で、その方面の著作も数あるようですが、本作は研究分野とは全くかかわりのない中世ヨーロッパを舞台とした歴史ものです。
恐ろしいマルチ才能ぶりですね。

新大陸の「発見」?

さて、冒頭の粗筋に出てくるスペイン語読みの「クリストバル・コロン」(演:横田栄司さん)はいうまでもなく、「クリストファー・コロンブス」(英語読み)のこと。
歴史的にはコロンブスといえば「アメリカを発見した偉人」として有名ですが、最近ではコンキスタドール(征服者)として有名なエルナン・コルテス(アステカ文明を破壊)やフランシスコ・ピサロ(インカ文明を破壊)と並ぶ大量虐殺者としての側面も強調されているようです。

遥かな東、海の向こうに…

本作品ではコロンブスの祖先もユダヤ教徒という設定です。
異教徒の新天地を求めるコロンと、平和的な布教で異教徒との融和を図るアロンソという、ふたりの「純粋ではない」キリスト教徒。
西周りインド航路の開拓は、実は、彼ら差別と迫害を受けた弱者が、戦争と奴隷のない国を作るために見知らぬ新天地を目指した………??あれっ?いかーん!いつの間にか話が幸村誠さんの「ヴィンランド・サガ」になってしまった!

見えない自由が欲しくて…

まっまあ、何はともあれ歴史の結末は皆さんご存知のとおりです。
抑圧された弱いものが、さらに弱いものを叩く。その音が響き渡れば、ブルースは加速していく。………??あれっ?いつのまにはTHE BLUE HEARTSの「TRAIN-TRAIN」になっている。好い加減、脱線はやめねば。
ふざけてよい話題ではないですしね…

舞台は新世界へ…広がらない

という訳で、物語の前半は、山下康介さんの印象的な、でも抑えた音楽とともに悲劇の予感が増していきます。
しかし、後半は予想されたようなインディオ(ネイティブアメリカン)の悲劇はあまり触れられることなく、「悲劇」はスペイン国内のものに終始する展開。
確かに、恋人マリアをスペインに置いてアメリカに向け出帆してしまうと「1492年のマリア」にはならないのですが、佐藤賢一さん原作の「ジャガーになった男」のような、ヨーロッパ→新大陸の話を予想していたので少し拍子抜けでした。

宗教と人間

中世ヨーロッパで宗教と人間のあり方を問うという面では、同じ佐藤賢一さんでいえば、むしろ「カルチェ・ラタン」や「オクシタニア」に近いといえるでしょうか。
もう少しスケールの大きな話を聞きたかったというのも素直な感想ですが、これはこれで含蓄のある話ではありました。

中川晃教さん初主演

さて、出演者はまず、主役のアロンソ役がシンガーソングライターの中川晃教さん。
初舞台のミュージカル「モーツァルト」で、読売演劇大賞優秀男優賞、杉村春子賞、文化庁芸術祭賞新人賞を受賞するなど役者としても定評のある方だそうです。
青春アドベンチャーでは初主演だと思いますが、以前助演された「髑髏城の花嫁」を、本作品放送の直前に再放送するあたり、NHK-FMのスタッフも粋なことをするものです(なお、中川さんは後日「また、桜の国で」や「ハプスブルクの宝剣」でも素晴らしい演技を披露することになります)。

今までは出演作に恵まれなかった

また、ヒロインのマリア役は、青春アドベンチャーではすっかりおなじみの坂本真綾さん。
マリアは上流階級の設定で、丁寧な敬語で話す役なので、坂本さんの澄んだ声が良くあいますね。
って、最近ちょっと敬語フェチ(これとか、これとか)なのがばれちゃう発言でしたね…
坂本さんは、青春アドベンチャーでは、池澤春菜さん、佐々木望さん、千葉繁さんなど人気声優さんを揃えた「これは王国のかぎ」に出演以降、「白狐魔記」シリーズ、「鷲の歌」など多くの作品に出演されています。

坂本真綾さんベストアクトだが

本作品では、前半は単なるヒロインという程度の印象しかないマリアですが、後半は「1492年のマリア」というタイトルどおり、俄然出番が増加。
アロンソがウジウジとするのに反比例するかのように、凛々しさが際立ってきます。
特に終盤第9話の演技は、青春アドベンチャーにおける坂本真綾さんのベストアクトではないでしょうか。
あのシーンを声だけで表現するために、敢えて声優としても定評のある坂本さんを起用したのではないかとすら思いました。
坂本さんのファンは必聴ですが、ちょっと痛々しいシーンではあるのでお勧めして良いかは微妙なところです。



コメント

  1. コン より:

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    宗教とは何でこんなに人々を苦しめるのでしょうね。最初は聞き苦しかったのですが、地位に目がくらんだ友達から裏切られたり、愛する男のために体を売るシーンなど物語が急展開を迎えます。特に、この物語の真の主人公はマリアというほどマリアの活躍が眩しいです。
    最後まで聴けてよかったです!

  2. Hirokazu より:

    SECRET: 0
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    コン様

    コメントありがとうございます。
    おっしゃる通り本作品は坂本真綾さんの熱演が最高のききどころだと思います。
    宗教については…
    人の侵攻をとやかく言えるほど立派な人間ではないのでコメントはできないのですが、他社には寛容でありたいものですね。

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