- 作品 : リニューアル
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : C+
- 分類 : 幻想(その他)
- 初出 : 2024年8月26日~8月30日
- 回数 : 全5回(各回15分)
- 作 : 黒瀬ゆか
- 音楽 : 滝澤みのり
- 演出 : 木村明広
- 主演 : 小林親弘
西暦2224年。
環境汚染と感染症の蔓延により地球は人類が住むのに適さない星となりつつあり、人類全体もまた衰退への道をたどっていた。
生物学者のタロウはそんな世の中に嫌気がさし自暴自棄な生活をしていたが、妻のハナコは感染症を克服する手掛かりを求めて精力的に活動を続けていた。
そして遂にハナコはアマゾンのジャングルで宿主を再生することができるリニューアルという寄生植物を発見する。
しかし同時に不治の病に侵されてしまのだった。
本作品「リニューアル」は2024年にNHK-FM青春アドベンチャーで放送されたオーディオドラマで、黒瀬ゆかさんによる15分×5回のオリジナル脚本作品です。
黒瀬ゆかさんは青春アドベンチャーでは、2020年の「ストーリボックス ザ・トーキョー」と2024年の「雨のスケッチブック」の中で15分のオリジナル短編をひとつずつ、2023年の「夜に星を放つ」の中で原作付きの作品の脚色をひとつ担当されていますが、連続ものの長編の脚本、脚色は青春アドベンチャーは初めてです。
感染症ネタ
さて、本作品は近未来の地球を舞台にしたSF要素のある作品です。
SF面ではそもそも近未来を舞台にしていることに加えて、感染症と不思議な植物(リニューアル)のふたつが代表的な要素。
感染症ネタやこれに絡めた外出禁止ネタは新型コロナウィルス感染症アウトブレイク後の定番になっている感があり、青春アドベンチャーでも、舞台を現代日本にはしていないものの「黒十字の魔女 ヴィクトリア朝怪奇冒険譚外伝」(2021年)、「青髭公と五番目の花嫁」(2022年)、「まるみちゃんとうさぎくん」(2023年)など多数の作品が作られています。
もともと感染症ネタはSF界隈でよくあるネタの一つであり、小松左京さんの「復活の日」や小川一水さんの「天冥の標Ⅱ 救世群」など類例は多いのですが、コロナ以降はさすがに多すぎて若干食傷気味です。
ただ本作品の感染症ネタについては科学的な考証は特になくかなりカジュアルな使われ方です。
不思議な植物
また、不思議な植物という点では青春アドベンチャーでは2023年の「嘘の木」があり、またFMシアターでも同じ2023年の「木になった亜沙」があります。
両方ともかなり強烈な作品で、前者は暗闇で不気味に繁茂する得体のしれない植物の恐怖感を音響効果とセリフ回しで表現した怪作。
後者はその救われないストーリー展開の胸糞悪さが後を引く作品です。
実は本作はこの2作品のどちらかに比較的似た展開があるのですが(どちらかについてはネタばれ防止のためご容赦ください)、これらに比較するとどうしても本作の薄味さは否めません。
そのため当ブログで本作品はSFでもなくホラーでもなく、幻想(=ファンタジー)に分類させていただきました。
音楽は滝澤みのりさん
ただファンタジーとしてみると評価すべき点が多いのも事実。
まず音楽と音響効果。
滝澤みのりさんの音楽が作品の雰囲気づくりへ大きく貢献していることは確かだと思います。
またこれに合わせて幻想的につくりこまれた音響効果も印象的です。
全5回のSF要素・幻想要素が強いオリジナルものとしては2021年の「人工心臓」や「世界から歌が消える前に」がありますが本作品もなかなかです。
声優色の強いキャスト
また幻想要素が強いという点ではアニメで活躍されている声優さんを起用したキャスト効果的。
主演の小林親弘さんはもともと舞台俳優ですが、近年はTVアニメ「ゴールデンカムイ」で主役・杉元佐一を演じるなど声優としても活躍されている方。
井口裕香さんや土田玲央さん(「クラバート」のユーローだ!)も同様に声優メイン。
平田裕香さんについてはTOKYO FMの「NISSAN あ、安部礼司〜BEYOND THE AVERAGE」の方で有名かもしれません。
おかえりなさい大塚明夫さん
そして何より大塚明夫さん。
渋い仕事人の役をやらせたら業界でも有数の方(個人的には「ふしぎの海のナディア」のネモ船長かな)ですが、青春アドベンチャーでは2001年「王の眠る丘」に出演経験があります。
その後、FMシアター系では2013年の「ニューワールド」や「星を掘れ!」(これも無骨な職業人の役だった)へのご出演はありますが、青春アドベンチャーでは久しぶりの登場。
年齢を重ねてすっかり落ち着いてナレーションが似合う声になられていますね。
状況説明のナレーション
スタッフは脚本が上記のとおり黒瀬ゆかさんで演出は木村明広さん。
黒瀬さんの脚本については特に序盤はナレーションが多いと感じました。
例えば第1話で道端でお酒を売るシーン。
ただでさえ「酒が入ったクーラーボックスを並べ売っていた」というナレーションとその直後の「お兄さんもどう?ビールに酎ハイ、シャンパンもあるよ」というセリフが被っているうえに、音響効果で水から瓶を取り出す綺麗な音が重ねられ、状況説明として3重になっています。
先に脚本があってあとから効果が重ねられるという点で脚本家に責はないのですが、ここは「オーディオ」ドラマであることを信じ効果と演技に期待して控えめなナレーションにしてほしかったというのが個人的な感想です。
5話で描いた大きなストーリー
一方、全5回ということもあってかストーリーも若干説明足らずな部分があると感じました。
今時現金かといった直後に普通に現金で支払ったり(キャッシュレスが当たり前ならとっさに現金で払えないのでは?)、治療法がない病気なのに例の方法を試すことを全員が反対したり(確かに危険だとしてもそれしかないのなら賛成する人もいそうだけど)。
どれもこれも小さいことなのですが、登場人物たちの心の動きが不自然に感じるとどうしても気になってしまうので、状況説明のナレーションは短めにしてでも、心情理解のために必要なセリフに時間をかけていただきたいと感じました。
まあ全5回という短い時間で壮大な展開を描く作品なので仕方がないとは思いますし、そもそもファンタジーなので心情理解はリスナーに委ねたのだとは思いますが。
植物大好き?
また演出は声優さんを使うことが多い木村明広さんで、本作も木村さんらしいキャスティングだなあと思っていたのですが、もうひとつある特徴に気が付いてしまいました。
実は上に書いた不思議な植物を描いた「嘘の木」と「木になった亜沙」も木村さん演出なのです。
何か植物に強い思い入れがあるのでしょうかね。
コメント