シャングリラ 作:鈴木智、湯本香樹実(サラウンド・ファンタジー)

格付:B
  • 作品 : シャングリラ
  • 番組 : サラウンド・ファンタジー
  • 格付 : B+
  • 分類 : 異世界
  • 初出 : 1989年3月25日
  • 回数 : 全1回(80分)
  • 作  : 鈴木智、湯本香樹実
  • 音楽 : 長岡成貢
  • 演出 : 竹内豊
  • 主演 : 伊藤つかさ

遥かな過去、ユーフラテス河畔のカナンの街。
この街の千年の繁栄を司ってきたアララテの丘上の小さな教会の水時計が狂い始めた。
伝説によれば水時計が狂う時、世界は滅びるという。
時計守りの少女ステラは街を救うために、妹サラとともに先代の時計守りである母を訪ねる決意をするが、すでに街では洪水が起こりつつあった。
一方、超機械文明国クシャラにより滅ぼされたウルクの民の生き残りギルガメッシュは一族の存続をかけて永遠の命を求めて放浪していたが…




1989年(平成元年)にサラウンド・ファンタジーとして放送されたラジオドラマ「シャングリラ」のご紹介です。
本作品のまず第一の特徴はサラウンドによる音響効果。
この頃、NHK-FMはサラウンド効果を生かしたラジオドラマを積極的に放送しており、本作品も80分の大きな枠で放送されました。

シャングリラといっても…

内容は冒頭の粗筋からわかるとおりメソポタミア神話と洪水伝説を下敷きにした冒険ファンタジー。
シャングリラという言葉を想像したジェームズ・ヒルトンの「失われた地平線」と直接関係がないのは2022年の「滅びの前のシャングリラ」と同じです。

元ネタはメソポタミア神話

メソポタミア神話を題材にすることは、サブカル分野、特に主に若者向けのラノベ、アニメ、ゲームなどにおいて多く行われているので、現代では特に新鮮味はないと思いますが、当時はまだ少なく(1984年のナムコのゲーム「ドルアーガの塔」あたりが嚆矢かな)、メソポタミア神話の固有名詞を初めてこの作品で聞いた若者も多かったのではないでしょうか。
具体的にはギルガメッシュ、ウトナピシュテム、イシュタル、エンリル、箱舟、アララテ山など、明らかにメソポタミア神話や聖書を下敷きにした名前が続出します。

舞台設定はオリジナル色強し

ただ神話や聖書の物語、各キャラクターの役割を(それぞれかなりイメージが近い役割を担っていますが)そのまま再現するわけではありませんし、そもそも主人公がステラというなぜかラテン語由来の名前を持つオリジナルキャラクターですので、当ブログではあくまで一種の異世界ファンタジーと捉えています(最後の「超時空ラジオ」による物語の締め方を見ると現代につながっている世界観ではあるようですが)。

伊藤つかささん主演

さて、この作品ですが、いま改めて聞いてみるとFMらしいサラウンド効果の素晴らしさに驚くとともに、ストーリーの単純明解さにも割とびっくり。
正直、おじさんが聞くには甘すぎる話ですよね…
インベーダー・サマー」の記事にも書きましたが、この時代、ラジオドラマはその後の深夜アニメにも似た若者向きの媒体だった側面があります。
それは本作品の配役にも表れており、主役のステラを演じたのはアイドル歌手から女優へと脱皮中だった伊藤つかささん(当時22歳)。
本作品と似た特集番組だった1987年の「ビバ!スペースカレッジ」でも主演されていたほか、本ブログで「インベーダー・サマー」(1987年)、「ガール・ミーツ・ボーイ」(1990年)をご紹介済みであるとおり、当時、NHK-FMのラジオドラマの常連でした。

妹役は青木愛さん

ついでに妹のサラを演じた青木愛さんも「夢の旅」(1989年)、「暗殺のソロ」(1989年)、「最後の惑星」(1990年)などに出演されていました。
ちなみにこの青木愛さん、元参議院議員の元タレント青木愛さんと同一人物だと思っていたのですが、ネットで探してもタレント活動としては「トゥナイト2」のレポーターや歌手活動しか出てこないのでちょっと自信がなくなってきました…

なんと内藤剛志さんが!

一方、ステラの相手役のギルガメッシュを演じたのは、なんと俳優の内藤剛志さん。
後に多数の連ドラに出演し「連ドラの鉄人」と呼ばれ、今では沢口靖子さんの「科捜研の女」の準主役や「警視庁・捜査一課長」の主役でもお茶の間に知られていますが、当時は33歳。
NHK-FMのラジオドラマは時々妙に有名な俳優が出演していたりするのですが、内藤さんはそれとは異なり、当時はTVへの出演は悪役でのスポット的な出演が中心でまだまだメジャーとはいえない俳優さんでした。

NHKご用達の声優さんたち

その他、ギルガメッシュのライバル・エンリル役の塩沢兼人さん、エンキドゥ役の高木均さん、ウトナピシュテム役の田の中勇さん、テッケンジャ役の佐古雅誉さん、ナレーションの藤田淑子さんのほか、塩谷翼さんや阪脩さんなど、吹き替えも多くこなしてきたベテラン声優さんが多い辺りも「昭和に深夜アニメがあったら…」ぽい感じではあります(厳密にはこの作品は平成になってから約2カ月後に放送されていますが)。
ちなみにここに挙げた登場人物たちのうちの2人が実は裏で通じていて、嫌らしい言い方をすれば黒幕的な位置づけです。
単純なストーリーではありますが、そのあたりは意外な展開でした。

星の涙?

なお、本作品名をネットで検索すると「シャングリラ~星の涙~」というタイトルが出てきます。
この「星の涙」は水時計あるいは作中重要なキーワードとなる「小さき海」を指しているのだと思いますが、放送中にタイトルとして「星の涙」の部分が読まれることはありません。
これは何がネタ元なんでしょうね?当時のラジオ欄に載っていたのかな?


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