夏・風・ライダー 原作:高千穂遥(FMアドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : 夏・風・ライダー
  • 番組 : FMアドベンチャー
  • 格付 : AA
  • 分類 : スポーツ
  • 初出 : 1985年1月21日~2月1日
  • 各回 : 全10回(各回10分)
  • 原作 : 高千穂遙
  • 脚色 : 倉内均
  • 演出 : 千葉守、竹内豊
  • 出演 : 草野大悟

奥脇と一緒にオクワキエンジニアリングを立ち上げたのは、バイクが、とくにエンジンがただただ大好きだったからだ。
オクワキエンジニアリングを去ったのは、奥脇がパーツの製造販売に血道をあげ、いつしかマフラーしか弄れない毎日になってしまったからだ。
あれから9年。
今でも辞めたのが正解だったのか考えることがある。
オクワキエンジニアリングは早々にレースに参加するようになり、今では日本を代表するプライベーターと呼ばれるまでになった。
それに引き替え、俺は未だにしがないバイク屋の親父だ。
しかし、それも終わりだ。
俺も今年からレースに参戦する。
チーム“ノブ”といえば聞こえはいいが、まあ言ってみれば町内会チームだ。
それでもレースはレース。
時は来たのだ。
夏の「鈴鹿4時間耐久ロードレース」まで全力で突っ走るまでだ。



いきなり横道で恐縮です

最近、読み返したんですよ!
何をって?
「ふたり鷹」ですよ、「ふたり鷹」。
人によっては「俺は『バリ伝』(=バリバリ伝説)の方が好きだった!」、「俺が印象的なのは『汚れた英雄』だ!」なんて人もいるかもしれないけど、いやーとにかく熱いですよね、ロードレースって。
同じモータースポーツでもカーレースとは、またひと味違った熱さ。
学生スポーツとか文化祭とか、そういったものに通じる熱さです。
金はかかるが4輪に比べれば何とか参加できてしまうという経済的な条件、そしてヘルメットとライダースーツだけで過酷な世界に飛び込んでいくという無防備さがロードレースものに「ギリギリ感」や「必死さ」を帯びさせているように感じます。
あまりロードレースにエモーショナルな期待をしても当事者には怒られてしまうかも知れませんが、やっぱり「鈴鹿4時間耐久ロードレース」は「バイク乗りの甲子園」なんですよね。

高千穂遥さんとは?

さて、本作品はSF作家として有名な高千穂遙さんの小説を原作とするラジオドラマです。
高千穂遙さんは、「クラッシャージョウ」でスペースオペラ、「美獣」でヒロイック・ファンタジーという、2ジャンルで日本初の作品を生み出した方です。
少し大げさかもしれませんが、日本SF史上に残るエンターテイメント作家といえると思います。
NHK-FMのラジオドラマでも、アドベンチャーロード時代に「銀河番外地・運び屋サム」、「黄金のアポロ」の2作品がラジオドラマ化されています。

趣味全開!

高千穂さんは今でこそ自転車愛好家として知られていますが、昔はバイク好きとしても有名でした。
つまり、本作品は高千穂さんの趣味全開の作品であり、作品を聞いていてもバイク及びバイク文化に対する愛情があふれていることが感じられる作品です、
というのも、本作品の主人公はライダーではなくチームのオーナー。
本業も単なるバイク屋の親父です。
「昔は実は凄かった」という、よくある設定なのはご愛敬ですが、過去に大事なことをやり残してきた中年親父にも、バイクは青春を運んできてくれるのです。

コテコテのスポーツもの、そして青春もの

チームの結成、ライバルの出現、不調、事故、トラブル、そしてレース当日。
こうしてみると、典型的なスポーツものの展開です。
スポーツといえば、耐久レースは1台のマシンを複数のライダーが交代で乗り継ぐ、いわばリレー競技でもあり、「一瞬の風になれ」(4×100mリレー)や「風が強く吹いている」(駅伝)と同様のドラマ性もあります。
まさに主人公は親父だけど、実質的には青春スポーツもの。
目標の鈴鹿4時間耐久ロードレースが(もちろんそれ自体有名なレースではあるものの)極言すると8耐(鈴鹿8時間耐久ロードレース)の前座レースに過ぎないという「一流未満感」も、ギリギリあり得そうな感じがして良い舞台設定です。
だからこそ「ふたり鷹」や「バリバリ伝説」でも描かれているのでしょう。
本作品を一言で表すと「たった4時間の夏に捧げるための半年間」。
何ともリリカルにまとめることができる話です。

音が勝負

それにしても改めて思ったのですが、モータースポーツってラジオドラマにあっています。
モータースポーツの魅力のひとつはやはり「音」。
エグゾーストノートが響き渡るだけで作品世界に入ることができます。
モータースポーツを取り上げたラジオドラマはあまり聞かないのですが、これは狙い目だと思います。

主なキャスト

さて、主人公の山﨑を演じるのは俳優の草野大悟さん。
本ブログでも「世紀の大冒険レース~アムンゼンとスコット」、「脱獄山脈」などの出演作をご紹介済みです。
本作品のわずか6年後、51歳の若さで亡くなられたのはとても残念です。
また、ヒロインのゆかりとナレーションを担当したのは無名塾5期生の女優・原陽子さん、らしいのですが、いまひとつわかりません。
その他、中西良太さん(「いつか猫になる日まで」の水原役ですな)、五代高之さんあたりが主なキャストです。

脚色の倉内均さん

一方、スタッフは、脚色が倉内均さんで、演出が千葉守さんと竹内豊さん。
はっきりとはしないのですが、倉内さんが後年「佐賀のがばいばあちゃん」(2006年)、「日本のいちばん長い夏」(2007年)などの映画の監督をされた方だとすると、本作品は倉内さんがテレビマンユニオンから独立し、テレビ制作会社ネクサスの設立に参加される時期の作品と言うことになります。

演出はふたり体制

また、演出の千葉守さんは後年まで多くのNHK-FMのラジオドラマを演出されることになる方です。
後年は「おいしいコーヒーのいれ方」や「都会島のミラージュ」、「少年H」、「P」など、少しリリカルな日常っぽい作品のイメージが強くなるのですが、本作品は少しイメージが違いますね。
そういえば千葉さん演出の「武蔵野蹴球団」は「町内会チーム」という面で本作とよく似ていますが、同じトンデモ展開でも「バイエルンミュンヘン」より「4耐」の方が熱く感じられるのはなんででしょうね。
また、もう一人の演出の竹内豊さんの演出作品と言えば「妖精作戦」!
その他、「魔弾の射手」、「黄金海峡」など印象的なエンタテイメント作品を多く演出されています。




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