黒い瞳のボヘミアン 作:山谷典子(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : 黒い瞳のボヘミアン
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B-
  • 分類 : 恋愛
  • 初出 : 2022年6月20日~7月1日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 山谷典子
  • 音楽 : 関向弥生
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 華優希

19世紀末のパリ。
キャバレー「パピヨン・ルージュ」は芸術を愛するボヘミアンたちが集う社交場だった。
ローズはそのパピヨン・ルージュで一番人気の踊り子。
サーカスの空中ブランコで鍛えた肉体が描き出すダンスは芸術家たちの創作意欲を刺激してやまない。
しかし、ローズ自身は、ある虚無を抱えて退廃的に生きていた。
そんなローズに運命的な出会いが訪れる。
キャバレーの客として現れたボヘミアンのひとり、日本人画家カズタカ。
この出会いはふたりにどのような運命を運んでくるのか。


本作品「黒い瞳のボヘミアン」は、劇作家・山谷典子さん脚本によるオーディオドラマです。
山谷さんはこれまで「晴れたらいいね」や「斜陽の国のルスダン」などの原作付き作品の脚色をしてきましたが、本作品「黒い瞳のボヘミアン」が青春アドベンチャーでは初のオリジナル脚本作品です。

舞台説明は蛇足かな?

さて、本作品の舞台は19世紀末のパリ。
舞台設定を説明しすぎるのも無粋だとは思いますが、私自身良く分かっていないこともあり「青髭公の五番目の花嫁」に続き少しだけ調べてみました。
ただ、この背景説明は中盤以降の展開が少し予想できてしまう面もありますので、それが嫌な方は以下の詳細はクリックせずに読み飛ばしてください。

クリックで詳細表示

まず、作品中盤で日清戦争が始まる(1894年)ので設定年代はほぼピンポイントで特定できます。
この時代のフランスはフランス革命から第三共和政初期まで長く続いた混乱期を脱し、第1次世界大戦がはじまるまでの短い繁栄期にありました。
いわゆるベル・エポック(美しい時代)と呼ばれる消費文化が発達した時代であり、その象徴が1900年に開かれることになるパリ万博です。
文化面ではアール・ヌーヴォー(新しい芸術)や世紀末芸術などと呼ばれ、退廃的で派手である一方、鉄やガラスといった新素材を積極的に使った新しい時代でもあったようです。
そういえば本作でもキャバレーのポスターが作品世界を象徴する芸術として登場しますね。
そして1889年に開業したキャバレー「ムーラン・ルージュ」(赤い風車)もこの時代を象徴するアイテム。
いうまでもなく本作の舞台パピヨン・ルージュ(赤い蝶)のモデルでしょう(本作には別途「ムーラン・ノワール」なるキャバレーも登場します)。
モデルといえば本作品には、ムーラン・ルージュのポスターを書いたことで有名な実在の画家ロートレックが登場するのですが、それでは主人公ローズ・ヴァラドンのモデルは誰でしょうか。
調べてみると当時の有名な女性画家のシュザンヌ・ヴァラドン(画家ユトリロの母)がサーカスで空中ブランコをやっていたこと(転落して重傷を負ったらしい)や、モデルとして画家たちと親交を持ったということから該当しそうです。
史実では、シュザンヌの才能を見出したのはロートレックのようですが、本作品はあくまでフィクションであり、ローズの才能を見出したのは、日本から来たボヘミアン(ボヘミアンは本来、ロマ=ジプシーのことだが、転じて流浪の芸術家のこと)である、カズタカということになります。
それではカズタカのモデルは?となるのですが、正直この辺の日本の美術史は全く知らないのでよくわかりません。
有名どころでは黒田清輝ですが、薩摩出身で後に画壇の権威となる黒田は少しイメージが違いますね。
どちらかというとフランス人と結婚した藤田嗣治ですが、1913年にパリに渡っていますので時代が20年ほど違います。
外国人との大恋愛といえば1884年から1889年に留学した森鷗外ですが、これは分野も留学先も違います。
イメージとしても「鷗外 青春診療録控 千住に吹く風」と全くつながりませんしね。
明確なモデルはいないのかもしれません。
この辺は山谷さんご自身のコメントがないと何とも言えませんね。

19世紀末が舞台のロマンス

さて、本作品は踊り子ローズと日本人画家カズタカの出会いと惹かれあう姿(芸術面でもそれ以外でも)を描いた作品です。
上で延々と時代背景を推測しましたが、作品を楽しむために必要な情報は、脚本と関向弥生さんの音楽、俳優さんの演技、そして演出で十分に提供されるため、上記の背景情報は不要です。
つまり本作品は歴史ものというより、あくまで人間の心の動きを描いたロマンス作品です。

好きな人には…

宝塚などで上演されてもよさそうな作品なので、そういったロマンチックな作品が好きな方には好評なのではないかと思います。
ローズ役の華優希さん(元宝塚歌劇団花組トップ娘役、2024年「太陽の城 月の砦」主演)の揺れる気持ちの演技も、もはや青春アドベンチャーの常連といってよい海宝直人さん(暁のハルモニアなど)の誠実な演技も素晴らしいです。
また、過去、精悍な軍人役(ハプスブルクの宝剣など)が多かったの伊礼彼方さんの世長けた色気のある男性役もなかなか。
ドガやロートレックなど実在の芸術家が登場するのも面白い。
ただ、正直、ストーリー展開が私にとっては甘すぎる。
人種差別や貧富の格差などを取り上げておきながら、主人公は状況に流されるだけだし、特に結末はあまりにも予定調和的というか。
それにそもそも私って、どんなに丁寧に作られていても「ローズ、デレるの早すぎ」とか考えてしまう俗物なんですよ。
そもそもローズは金とイケメンで迷い過ぎだし、カズタカも所詮いいとこのお坊ちゃんなんだよな…とかも考えてしまいモヤモヤしてしまいました。
本作品は好きな方、すみません。
あくまで私にとっては、ということで。

桜蔭って、あの?

ところでこの記事を書くにあたり、脚本の山谷典子さんの情報をネットで検索していたときに、さらっと私立桜蔭学園卒業と書いてあることに気が付きました。
これって首都圏女子校最難関、学年の1/3~1/4が現役で東大に行く(医学部志向の強い学校なので敢えて東大ではなく医学部を選んでいる人を含めると恐るべき合格実績!)、あの「桜蔭」ですよね。
とかく進学実績ばかりが語られがちな超進学校ですが、文化面で活躍される方もいらっしゃるのが桜蔭の懐の深さかもしれません。

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