謙信サマは今日も気まぐれ 作:池谷雅生(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : 謙信サマは今日も気まぐれ
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B+
  • 分類 : タイムトラベル
  • 初出 : 2025年5月12日~5月23日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 池谷雅生
  • 演出 : 真銅健嗣
  • 主演 : 工藤遥

メガネ歴女・富香の目下の悩みは修士2年になるのに論文テーマが決まっていないこと。
しかしある日、ふと気が付いたら戦国時代の女性・お松の中に意識だけタイムリープしていた。
しかもおまつは富香の推しの武将・上杉謙信の侍女だという。
おまつを通して謙信に質問をするチャンスを得る富香だが。
話し出したら止まらなくなることがある…?
寝なくても元気に起き続けていられる…?
急に興奮が収まらなくて怒りっぽくなったり根拠がないのに自信に満ち溢れることがある…?
これは!論文のきっかけをつかんだかもしれない!


本作品「謙信サマは今日も気まぐれ」はNHK-FM青春アドベンチャーで放送されたオーディオドラマで、池谷雅生さん脚本の作品です。
池谷さんは、青春アドベンチャーで原作付き作品の脚色担当として「蒼のファンファーレ」・「北海タイムス物語」・「鷲は舞い降りた」など6作品を手がけています。
これらの作品は当ブログで高い評価を付けているものが多いのですが、そんな池谷さんの「嘘か真か」(井上悠介さんと連名、2021年)に次いで青春アドベンチャー2作品目のオリジナル脚本作品がこの「謙信サマは今日も気まぐれ」です。

時は戦後時代、所は越後

作品のストーリーは概ね冒頭のあらすじのとおり。
大学院生の富香(「富美加」と変換されてしまうのはこの作品のせい…)がおばさんに頼まれて蔵の整理をしていた時にカジュアルにタイムリープ。
タイムリープ先はたまたま以前から関心を持っていた戦国時代、しかも推しの上杉謙信の側近く、というのはとんだご都合主義ではありますが、実際に会ってみた上杉謙信(ただしまだ長尾景虎を名乗っていた時代)は予想以上にエキセントリック。
彼の極端に波のある言動に翻弄されつつ、タイムリープ先の女性とともに謙信の実像を探っていくのですが…

意識だけタイムリープ

この紹介のとおり本作品はタイムトラベルものですが、タイムトラベルするのは意識だけ。
しかもタイムトラベル先の女性(おまつ)の意識も残っており、体は依然、おまつひとりがコントロールしていますので、実質的に富香は意識の一部を借りて憑依しているに過ぎません。
しかしおまつがなかなか気の利く女性(学者の卵の富香よりよほど頭がよい)であるため、ふたりはうまく協力して物事を進めていきます。

精神科考証?

…という展開の作品なのですが、正直なところ女性向けのかなり軽めのラノベ、少女小説、BL作品にありそうな設定ですよね。
というか実際、概ねそんな作品なのですが、1点違うのは、本作品に「精神科考証」がついていること。
つまり上杉謙信のエキセントリックな性格を心の病という側面から描いているのです。
この要素は特に後半になるにつれ濃厚になり、戦国メンタルヘルスものといってもよい様相を呈してきます。
ただ所詮戦国時代で薬物療法には限界があるはずなので、かなりご都合主義な終わり方ではあるのですが、タイムトラベルものならではのストーリー展開ではありました。

鈴木達央さんの上杉謙信(というか長尾景虎)

さて、「女性向けのかなり軽めのラノベ、少女小説、BL作品」という表現をしましたが、そう感じた原因のひとつはやはり上杉謙信(作中では長尾景虎)役の鈴木達央さんの演技でしょう。
現在の人気男性声優のひとりでそれこそBLCDなどへもたくさんの出演歴がありますが、実は青春アドベンチャーでは2020年の「ウィッグ取ったらただの人」に出演した経験があります。
彼を上杉謙信にキャスティングするあたり、完全に狙った配役です。

元モーニング娘。の工藤遥さん

そして主演の女性ペアを演じるのは富香役の工藤遥さんと、おまつ役の井頭愛海さん。
工藤さんはもともと「モーニング娘。」のアイドルさんですが、卒業後は女優活動に積極的であり、スーパー戦隊シリーズ第42作「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」にて、早見初美花(ルパンイエロー)役までやっています。
FMシアターでも「卒母奮闘記」に主演済みで本、作品を聞いていても声だけの演技もうまいと感じます。

良作多数の井頭愛海さん

また井頭さんも、後半とてもきつい展開が続く「ベルリンは晴れているか」や当ブログの2019年アンケートで評価の高かった「砂浜クラブ」に主演しており、演技はばっちりです。

全体的な評価

さて本作品、ライトな導入部やコメディ性という点で、同じ青春アドベンチャーのオリジナル脚本タイムトラベル「元中学生日記」(2019年)に類似する性格があります。
ただ同ジャンルの傑作ともいえる「元中学生日記」と比べると、シナリオ上の工夫などの点で、正直かなり分が悪い。
とはいえ、精神病を絡めた展開の面白さ、それに何より工藤遥さんと井頭愛海さんの演技の良さという点で聴く価値のある作品だったと思います。

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