- 作品 : 狩人たち
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A-
- 分類 : 幻想(その他)
- 初出 : 1999年11月8日~11月19日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 薄井ゆうじ
- 脚色 : じんのひろあき
- 演出 : 川口泰典
- 主演 : 松本保典
「1990年代の5月の日本」の設定で環境が管理された実験都市ドームシティ・タヒチ。
そこは、物流パイプを除くすべてが、半透明のエアウォールで外界と完全に遮断された無菌の閉鎖空間だった。
この管理社会で産まれた最初の人間である妹尾樹林(せのお・じゅりん)は、ある日、外の世界から来た黒髪の少女と、野生のマウスに出会う。
この世界には存在しないはずの少女とマウスは何を意味するのか。
人間はなぜこのような閉鎖都市をつくったのか。
樹林と彼の仲間である若者集団「狩人」、そして外への脱出をもくろむ密売屋と謎の老人とともに、この都市の謎を探り始める。
本作品「狩人たち」は、青春アドベンチャー系のラジオドラマ番組で4作品がラジオドラマ化された人気原作者である薄井ゆうじさんの原作作品です。
薄井ゆうじ原作作品
4作品とは、本作品のほか「天使猫のいる部屋」、「青の時間」、「星の感触」であり、この中では本作品が一番最後にラジオドラマ化されました。
ちなみに、本ブログでの紹介も本作品が一番最後です。
ディストピア
さて、薄井ゆうじさん原作の他の三作品が、基本的に現代日本を舞台にした作品であるのに対し、本作品はいわゆるディストピア(反ユートピア)もので、最もSF色が強い作品です。
ディストピアものといえば、本作品の約5カ月後に同じ川口泰典さん演出で制作された「愛のふりかけ」や、約3年後に制作された「スウィート・アンダーグラウンド」、そして後年の2013年の「僕たちの宇宙船」を思い出します。
本作品は外部からの侵入者を切っ掛けとして徐々に世界のほころびが表面化していく展開であり、その面では「スウィート・アンダーグラウンド」や「僕たちの宇宙船」に近いと言えます。
脱出ものではない
本作品における最大の謎はドームシティの存在理由であり、主人公・妹尾樹林の最大の目的はこのディストピアからの脱出です。
そのため、当初は脱出方法を探しながら物語が進み、謎を解明し脱出できたところで終わるのではないかと思いながら聴いていたのですが、意外にも物語の折り返しを待たずに脱出できてしまいました。
脱出後、ストーリーはどのように展開していくのか。
妹尾樹林はどのような生き方を選択していくのか。
本作品のタイトルである「狩人」は、ドーム内で妹尾樹林がヘッドをしていた暴走族(安全に管理されたドーム内なのでかなり牧歌的な暴走族ですが)の名前なのですが、冒頭提示した謎に関連する「ハンターシステム」に対応する言葉でもあります。
この辺はネタバレになるので、聴いての(読んでの)お楽しみでしょう。
SFぽさは薄目
ただ、本作品は、あまりSF的な説明を重視した作品ではありません。
先日放送されたNHKスペシャル「腸内フローラ 解明!驚異の最近パワー」などをみているとそもそも無菌で人間は生存できるかも疑問に感じます。
結末についても科学的な説明はなく、SF的と言うより、生き方の選択と言った哲学的な解決が主になります。
薄井さんの他の作品と同様にSFとは少し違うので、本ブログでのジャンルは幻想(その他)=ファンタジーとしました。
最後期の川口泰典演出作品
スタッフに話を移しますと、本作品の演出は、1990年代前半から中盤にかけて、青春アドベンチャーで異常な数の作品を演出した川口泰典さんです。
青春アドベンチャーでの川口さん演出作品は1997年以降、ぱたっと少なくなり、2001年4月の「見習い魔女にご用心 ランドオーヴァーpart5」が最後になります。
つまり本作品は川口さん演出作品の中でも最後期の作品です(後に2022年の青春アドベンチャー30周年にあわせて「鷗外 青春診療録 千住に吹く風」1作品だけ演出されました)。
お馴染み川口組
出演者も川口作品ではおなじみのメンバーが多く、主人公の妹尾樹林役の松本保典さんは「あの夜が知っている」や「魔法の王国売ります ランドオーヴァーpart1」などで、ヒロインの唐木リリ役の大輝ゆうさんは「カルパチア綺想曲」や「都立高校独立国」などで、G役の吉田鋼太郎さんは「ブラジルから来た少年」などで、「男」という超端役を演じる海津義孝さんは「ジュラシック・パーク」などで、主役級の役を演じていますし、武岡淳一さん(エデン2185)、紘美雪さん(リプレイ)、川久保潔さん(BANANA FISH)などを含めて、後期川口作品の集大成の観があります。
それにしても公安の国岡貞夫を演じる川久保さんの人を食ったような演技はさすがですね。
後にブレイクした俳優さん
また、吉田鋼太郎さんは、もともと蜷川幸雄演出作品の常連俳優さんで、それなりに有名な方だったようですが、2014年の連続テレビ小説「花子とアン」のレギュラー出演で現在、お茶の間でもプチブレイクしているみたいですね。
上川隆也さん(あたしの知らない私の声)、渡辺いっけいさん(サンタクロースが歌ってくれたなど)や松重豊さん(猫のゆりかごなど)など青春アドベンチャーに何作品も出演していた方が、テレビなどで有名になるのを見ると、ちょっと嬉しいです。
そうそう出演者と言えば第8回に「女の子」という端役で、声優の池澤春菜さんも出演されています。
池澤さんは本作品から4カ月後に放送された「これは王国のかぎ」で主役に抜擢されることになります。
じんのひろあき脚本
また、脚色の「じんのひろあき」さんは、川口さんと組んで「わたしは真悟」、「北壁の死闘」、「五番目のサリー」、「BANANA FISH」など数々の名作を残した方です。
本作品では、各回の冒頭で、意図的に前回のラスト部分を長めに再演させたり、第9回に登場人物が順番に自分の選択を語る印象的な場面を用意していたりなかなか手慣れた脚本だと思います。
なお、本作品は、「川口+じんの」コンビの最後の作品になります。
カウントダウン
ところで、本作品のすぐ後の川口さん演出作品は、2000年2月の「エデン2185」なのですが、本作品と「エデン2185」との不思議な共通点として、各回冒頭にロケットの発射シーンのようなカウントダウンが入ることが挙げられます。
「エデン2185」は世代間宇宙船がテーマの作品なのでおかしくはないのですが、本作品にカウントダウンが入っているのはなぜなんでしょうね?(本作品も世代間宇宙船に関係ないわけではないのですが)。
【じんのひろあき脚本の他の作品】
スピーディーな展開、的を絞った見せ場。
青春アドベンチャー初期の名脚色家・じんのひろあきさんの担当作品一覧はこちらです。
【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらをご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。
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