ステップを聴かせて 作:虎本剛(FMシアター)

格付:B
  • 作品 : ステップを聴かせて
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : B+
  • 分類 : スポーツ
  • 初出 : 2018年9月29日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 作  : 虎本剛
  • 音楽 : 和田貴史
  • 演出 : 小島史敬
  • 主演 : 林遣都

「進藤聡太に走る資格なんてない!」
日本中から浴びせかけられたそんな罵声を、自分は甘んじて受けるしかなかった。
なぜなら自分自身がそう思っていたから。
だから「もう二度と走らへん」と決めた…ハズだった。
しかし、若くもなく何の取り柄もない自分にまともな職があるわけがない。
だから走ることを仕事にするしかなかった。
そう、あくまで仕事だ。しかも気の乗らない仕事…



本作品「ステップを聴かせて」は、劇団ステージタイガーの副代表で、劇作家・演出家・俳優である虎本剛さんによるオリジナル脚本のラジオドラマです。
この劇団ステージタイガーは劇団員のみなさんが鍛え上げられた肉体を誇る「体育会系」の劇団だそうで、そのためか本作品もスポーツを題材にした作品になっています。
ちなみに虎本さんはFMシアターには2019年にプロレスを題材にした「カウント2.9!」の脚本も提供しています。

ブラインドマラソン…よく知らない

さて、その虎本さんがこの作品で取り上げているスポーツは何かというと、それはずばり「ブラインドマラソン」。
2020年東京オリンピック・パラリンピックが近づいている中、なかなかタイムリーな題材です。
本作品はまずこの題材がいい。
「ブラインドマラソン」と聞くと名称からすぐに障害者スポーツ、特に長距離走であろうことは想像できます。
でも、ランニング中に木の根っこにつまずいて派手にこけてしまって以来、転ぶことにすっかり恐怖心を持つようになってしまった私としては、目が見えない状態で(トラックならともかく)ロードを走ると言うこと自体が信じられない。
すごい勇気だなと思いながら改めて考えてみると、そもそもブラインドマラソンのルールを全く知らないことに気がつきました。
そのため、この競技のルールや実態が垣間見えるというのにまず興味を惹かれました。

ナビゲーター役の重要さ

例えば、ブラインドマラソンでは選手は目が見えないので伴走者が一緒に走るのですが、この伴走者について何となく「選手以上の走力が必要な難しい役割なのではないか」とは思っていたのですが、どうもそれにとどまらない様子。
例えば、他のランナーとの位置関係や路面の状況、コースの先行きなどを伝え、タイム管理まで行っているようです。
これはもはや自動車のラリー競技におけるドライバーに対するナビゲーターの位置づけに近いのではないでしょうか。
また、選手と伴走者が「紐」でつながれるというのも、例えば駅伝における「襷」(たすき)やリレーにおけるバトンに近いエモーショナルな要素。
選手と伴走者が手足の振りを揃える、というのも同様で、とてもドラマの題材向きだと思います。
ただ、この「ステップを聴かせて」ではあまり競技の細かい要素までは紹介できていなかったのは残念。
できればもう少し詳しく知りたいと思いました。

聡太・あゆみの言動が不可解

「もう少し」という点でいえば、正直、シナリオが少しちぐはぐだったのも残念に感じました。
例えば、主人公・聡太がマラソンの日本代表候補でしかも大変な騒動を起こしていたのにも関わらず、ヒロイン・あゆみが彼のことを知らなかったなどと言うことがあり得るのでしょうか。
また、仮に知らなかったとしても他人に迷惑をかけることを極度に恐れている聡太が、伴走者を引き受けるにあたりなぜその辺を説明しなかったのだろう。
確かにあゆみはかなり小生意気で思い込みの激しい少女です(「生まれて初めて私のことをわかってくれる人に出会えた」とか普通言わないですよね)。
だから、当時、聡太に降りかかった国民的な(!)バッシングの話を聞いても、聡太の気持ちを理解できないくらい幼いのも仕方ないかも知れません。
であるならば聡太の方からきちんと話すべきです。
社会人ならそのくらいはできないものかな。

周りの人物の行動も不可解

また、仮に彼が説明しなかったとしても、彼の正体が回りに知られれば大騒ぎになることはスポンサーなど回りの大人であれば容易に想像できるのでは?
それなのにこのスポンサーもあゆみにきちんと事情を説明するのを怠り、しかも就職をエサに何カ月も聡太に伴走者の仕事をさせておきながら「採用の話はなかったことにして頂戴!」っていくらなんでも倫理観に欠けるのでは?
というか、何カ月も走らせておきながら、まだ採用していなかったんだ…
随分ブラックですね。
その他、聡太が競技生活を引退するきっかけとなった○○選手についても、事故の際にはあれだけ派手に「足が~!!」とか騒いでおきながら、再会した際にはさらっと「お前の引退なんて望んでいない」とか。今更過ぎるでしょう。
FMシアターの50分枠の中に詰め込むためにはやむを得なかったのだとは思いますが、題材と出演者が良かっただけにモヤモヤが残りました。

若手実力派・林遣都さん

さて、ここで出演者の話が出たので、出演者の話に移りましょう。
本作品の主人公とヒロインは、林遣都さん、小芝風花さんの若手実力派俳優コンビが演じています。
林遣都さんは2007年、あさのあつこさん原作の映画「バッテリー」で俳優デビュー。
その年の多くの新人賞を受賞された方です。
その後、映画「DIVE!!」や「風が強く吹いている」、テレビドラマ「荒川アンダーザブリッジ」などでも主役を務めている
バッテリー」、「DIVE!!」と青春アドベンチャーに縁のある作品が並びますが残念ながら出演されたのは青春アドベンチャー版ではありません。
ちなみにNHK-FMのラジオドラマではFMシアターの「ウイニングボール」(2011年)や特集オーディオドラマ「ピンザの島」(2017年)に出演されています。
ちなみに林さんは滋賀県大津市ご出身なので、一応、関西弁ネイティブではあります。

将来が楽しみ・小芝風花さん

そしてヒロインのブラインドランナー・あゆみを演じたのは小芝風花さん。
このブログではすでに青春アドベンチャーの「王妃の帰還」(2018年)とFMシアターの「唄娘」(2017年)を紹介済みです。
両作品とも好印象の作品でした。
本作品のあゆみは、少しオタク系のノリスケ(王妃の帰還)とも、ほんわか系のみさと(唄娘)とも違う、強気&勝ち気なキャラクターですが、これはこれでなかなか。
ちなみに小芝さんは大阪府堺市の出身とのことなので、こちらは完全にネイティブな大阪弁です。
小芝さんは声が特徴的でラジオドラマ向きだと思うのですが、2014年の実写映画版「魔女の宅急便」に主演したほか、2015年の朝ドラ「あさが来た」でヒロインの娘役を務めていますし(ちなみにこの時ヒロインの娘時代を演じたのが「さよなら、田中さん」主演の鈴木莉央さん)、2019年1月には連続ドラマ「トクサツガガガ」に主演済み。
このままもっと大きくなっていく方なのかも知れません。


本作品は当ブログが実施した「2018年FMシアター・特集オーディオドラマ人気投票」の第5位(「いさ行かむ 短歌甲子園へ」と同点)の作品です。



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