- 作品 : ブルボンの封印
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA-
- 分類 : 歴史時代(海外)
- 初出 : 1993年8月16日~9月3日
- 回数 : 全15回(各回15分)
- 原作 : 藤本ひとみ
- 脚色 : 小林龍雄
- 音楽 : 梶本芳孝
- 演出 : 伊藤豊英
- 主演 : 高橋理恵子
17世紀のフランス。
太陽王と呼ばれたルイ14世のもと、フランスは絶対王政の絶頂期を迎えた。
しかし、その太陽王の若き日には、世に知られない陰謀劇が繰り広げられていた。
事件は1643年5月3日に、宰相マザランがひとりの嬰児を拾ったことから始まる。
もしこの時、マザランがこの女の子を拾わなければ、歴史の流れは大きく変わっていたかも知れない。
この物語は、マリエールとマノンという2人の少女、そしてルイとジェームズという2人の男を巡る、数奇な運命の物語である。
本作品「ブルボンの封印」は藤本ひとみさん原作の小説を、1993年にNHK-FMの「青春アドベンチャー」でラジオドラマ化した作品です。
藤本ひとみ原作の3つの作品
青春アドベンチャーでは、本作品の前年の1992年に、同じ藤本ひとみさん原作の「王女アストライア」を、同じ伊藤豊英さん演出でラジオドラマ化していました。
この「王女アストライア」は「テーヌ・フォレーヌシリーズ」の第1作であり、ラジオドラマも如何にも次に続きそうな形で終わっていました。
しかし、残念ながら結局、続編がラジオドラマ化されることはなく、仕切り直しで(?)本作品が制作された状況にあります。
本作品は「王女アストライア」の反省?を踏まえてか、文庫本で上下巻併せて897ページ(417+480)の大作を、全15回という青春アドベンチャーでは長めの枠を使って一気に描ききっています。
なお、藤本ひとみさんについてはもう1作、「ハプスブルクの宝剣」が2020年に放送されています。
青春アドベンチャーの一大勢力
ところで、この記事をアップした時点において青春アドベンチャーでは、ハプスブルク朝を舞台にした「帝冠の恋」を放送しているわけですが、青春アドベンチャーでハプスブルクを題材にした作品はかなり貴重です。
一方、他の記事でも書いたように、本作品のように中世(近世)フランスを舞台にした作品は、「ベルサイユのばら外伝」、「紅はこべ」、「スカラムーシュ」、「三銃士」など、実はかなり頻繁に制作されています。
藤本ひとみさんと佐藤賢一さん
しかし、中世(近世)フランスもので私が一番好きな小説家である佐藤賢一さんの作品は、なぜかフランスを舞台としない「ジャガーになった男」だけしか取り上げられていません。
そのためラジオドラマ同士の比較は出来ないのですが、敢えて原作ベースで、藤本ひとみさんの作品を佐藤賢一さんの作品と比較してみると、藤本さん作品のストーリー展開における恋愛要素への依存度の高さが際立っています。
女性作家と男性作家の違い、などというステレオタイプな分類以上に、その恋愛体質ぶりは明らかです。
これはもちろん、佐藤さんの作品が男性作家であることから連想される程度以上に暴力偏重で、(特に初期の作品で)女性キャラクターの扱いがぞんざいであることと対になっています(描いている時代が人権意識のない中世だからだと思いますが)。
そんな私ですので、佐藤さんの作品とは対照的な本作品がかなり楽しめたのは少し意外でした。
面差しが王に似た少年
さて、物語は、何らかの理由でイギリス領のジャージー島に住むカータレット家に養子に出されるフランス人の少年のジェームズ(少年期は原田優一さん)が、主人公となる孤児の少女マリエールを引き取り島へ連れて行くところから始まります。
やがて美しく成長したマリエールは、その妹マノンとともにジェームズを愛することになるのですが、ジェームズが「2人の王」に似ているという事実、そしてそれが示す彼の出生の秘密が、血のつながらない姉妹を恋のライバルへと変貌させていくわけです。
バレバレかな?
「ルイ14世」、「似ている二人」、「出生の秘密」あたりで、勘の良い方は気づかれると思いますが、本作品はいわゆる「鉄仮面伝説」を題材にした作品です。
鉄仮面と呼ばれた謎の人物は実在した(ただし仮面の材質は別段、鉄ではなかったらしい)そうで、その正体には諸説あるようです。
本作品がベースとしている説は、フランスの映画監督マルセル・パニョルが「鉄仮面の秘密」で書いた「鉄仮面=ジェームズ・ド・ラ・クローシュ=ルイ14世の双子の兄」説です。
ただ、この説そのままではなく独自のアレンジを加えています。
どこがどのように違うかは、聴いて(読んで)のお楽しみに取っておきましょう。
いずれにせよ、鉄仮面伝説という著名なミステリーを本歌取りしたことにより、様々な想像が喚起され、飽きさせない作品になっています。
フーケが重要な位置づけ
また、陰謀劇らしく、ジェームズやルイ14世以上に、実在の陰謀家・財務長官ニコラ・フーケ(演:佐古雅誉(雅人、さこ・まさと)さん)の存在感が大きいこともなかなか興味深いところでした。
このフーケ、単なる黒幕ではなく、中年おやじでありながら、ある場面ではジェームズやルイと並ぶ、マリエールの相手役(恋のライバル)的な立ち位置にあります。
その意味で恋愛ドラマとしてもなかなかドロドロの作品です。
お楽しみのシーン?
ドロドロと言えば、本作品は複数回の「濡れ場」がある、数少ない青春アドベンチャー作品です。
もちろん、番組全般でほとんど色っぽいシーンのない青春アドベンチャーのこと、本作品の「濡れ場」もかなりソフトで、多少悩ましい息遣いなどがある程度です。
しかも、一番印象的な「息遣い」が男性(しかも主要キャラですらない)のものだったりするのが何とも言えないところです…
主演は高橋理恵子さん
話を出演者に移しますと、本作品で主役のマリエールを演じるのは演劇集団・円に所属する女優・高橋理恵子さん。
本作の後、1995年の「夏への扉」(ヒロインのリッキー)など多くの青春アドベンチャー作品に出演されることになります。
マリエール、健気で素直でとてもいい娘であり、このマリエールの好印象には高橋さんの声の影響が大きいと思います。
広瀬彩さんも準主役級
また、「後に他の作品へ出演」ということでいえば高橋さん以上なのが、マノンを演じた広瀬彩さん。
「春休み少年探偵団」(1993年)、「ダブル・キャスト」(2001年)、「聖杯伝説」(2003年)、「失われた地平線」(2009年)などヒロイン級での出演作がズラリ。
本作品キャストの中では最も出世(笑)した方といっても過言ではないでしょう。
役としても素直なマリエールより、暴走気味のマノンの方が面白味があるのも確かです。
まあ、女性としてどちらを選ぶかといわれれば、もちろんマリエールではありますが。
相手役は1人2役
一方、ふたりの少女が主人公である本作品において、主人公の相手方であるイケメン、ジェームズとルイ14世はふたりとも、岩田淳さん(第2話から)が演じていらっしゃいます。
この岩田淳さん、聴かない名前だと思いましたが、調べてみたところ、時代劇俳優として有名な田口計さんの息子さんで、今は「岩田和樹」名義で活躍されているようです。
序盤のジェームズのセリフに「自分に責任のないことは一切干渉しない。もし助けを求められたら、その時は力を貸す。そして人の過ちは許し、静かに見守りながら、自分のするべきことだけを熱心に考えていく」というものがあるのですが、いやー大人ですな。
見た目だけではなく性格もイケメンの好青年!
でもキャラクターとしては佐古雅誉さん演じるフーケの方が面白いんですけどね。
メーテル!
あとキャストで忘れてならないのは、ナレーションを担当した池田昌子さん。
メーテルですよ、メーテル。
「いつか猫になる日まで」(アドベンチャーロード)では役をもって出演されていましたが、ナレーションもいいですね。
ドラマCDとの関係
さて、「ブルボンの封印」は新潮社の「新潮CDブック」ブランドでドラマCDが発売されています。
発売が1993年12月とのことなので、てっきり、この青春アドベンチャー版ラジオドラマを販売したのだと思っていたのですが…
なぜか全然別物です。
キャストを見ても、マリエールは島本須美さん、マノンが松井菜桜子さん、ジェームズが松本保典さん、ルイが子安武人さん、フーケが野沢那智さん、その他、山寺宏一さん、速水奨さん、羽左間道夫さんなどアニメ畑の専業声優さんがズラリ。
また、作中で発生するイベントは概ね同じなのですが、細かい顛末、場面ごとの登場人物の役廻りは微妙に、ですが明確に異なります。
青春アドベンチャー版では序盤から敵役として重要な役割を担うフーケですが、CDブック版ではその役割はマザランとル・テリエに奪われて端役に近い扱いになっています。
流れもかなり違う
また、CDブック版ではルイのふたりの側近アドリアン・モーリスとフランソワ・ミシェルがクローズアップされ、特にアドリアン(演:山寺宏一さん)は物語を能動的に解き明かしていくキーマンに格上げされており、事実上の主役扱いです。
ジェームズとルイの扱いも、CDブック版では出番がかなりルイに偏っています。
そのため、物語の「貴種流離譚」的な側面が薄まったばかりか、ジェームズがイギリス王と共謀する重要な経緯もばっさりカットされています。
カットといえば、物語の冒頭部分(ジェームズの幼少期からマノンがグレるまで)がカットされているのは、見せ場を絞るために仕方がないとしても、4人が揃うクライマックスの一幕が省略されているのは頂けません。
原作者の藤本ひとみさんが書きたかったのは、あのクライマックスシーンではなく、そこに至る過程なのかもしれませんが、これにより作品全体の尻切れトンボ感が半端ではなくなっています。
違いの原因は?
この違いはどこからうまれたのでしょう。
そしてどちらが原作に近いのでしょう。
実は、青春アドベンチャーを含む複数のメディアにマルチメディア展開された作品で「結局、一番原作小説に近かったのは青春アドベンチャー版だった」というのは「ジュラシック・パーク」を初めてとして、よくあります。
しかし、このCDブックは原作者である藤本ひとみさん自身によるプロデュースです。
そのため今回に限ってはCDブック版の方が原作に近い可能性も考えられます。
改めて考えると、同時期にほぼ同じ長さの尺で、敢えて青春アドベンチャー版とは違ったCDブックをだしたからには、藤本さんは青春アドベンチャー版に不満があったのかもしれません。
どちらの出来が上?
CDブック版の豪華な声優陣による掛け合いも、青春アドベンチャー版のエピローグ・エンディングを重視した物語的な完成度や梶本芳孝さん(のちに「おいしいコーヒーのいれ方」の音楽を担当)によるオリジナル音楽も、甲乙つけがたく、経緯などどうでもよいのかもしれないのですが、何ともすっきりしない顛末ではあります…
是非ご協力を
最後に一つだけ。
私、この青春アドベンチャー版「ブルボンの封印」の第7話を聴いたことがありません。
前後を聴くとこの第7話、結構重要な回であることがわかります。
もし音源をお持ちでお聴かせいただける方がいらっしゃいましたら、是非お願いいたします。
【伊藤豊英演出の他の作品】
多くの冒険ものの演出を手掛けられた伊藤豊英さんの演出作品の記事一覧は別の記事にまとめました。
詳しくはこちらをご参照ください。
コメント