- 作品 : 空色勾玉
- 番組 : アドベンチャーロード
- 格付 : AA
- 分類 : 異世界
- 初出 : 1989年6月5日~6月16日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 荻原規子
- 脚色 : 佐々木守
- 演出 : 笹原紀昭
- 主演 : 河合美佐
輝の大御神(かぐのおおみかみ)の勢力下にある羽柴の里に暮らす少女・狭也(さや)。
彼女は、大御神の御子である月代王(つきしろのおおきみ)に身分違いの淡い思いを寄せる普通の少女であった。
ある祭りの夜までは。
その夜、狭也は、大御神に敵対する闇(くら)一族の者達と出会い、自らもまた闇一族の姫巫女「水の乙女」であることを知る。
しかし、光に焦がれる彼女は、闇一族の誘いを拒絶する。
そして逆に、闇一族を追って羽柴にやって来た月代王の誘いを受け、彼の采女(うねめ=女官)として輝一族の王宮である「輝の宮」に移り住むことを決意する。
輝一族と闇一族の戦いの狭間で、狭也にはどのような運命が待ち構えているのだろうか。
荻原規子さんのデビュー小説を原作としたラジオドラマです。
初放送は「アドベンチャーロード」時代の1989年ですが、何と約20年後の2009年に「FM開局40周年記念アンコール放送」として再放送されました。
異例の長期インターバル
近年の青春アドベンチャーの再放送は概ね2年程度前の作品を放送することが通例です。
本作品の他に昔の作品が再放送された例としては、2012年にやはり約20年ぶりに再放送されたアンデルセンの「雪の女王」がありますが、いずれにしろかなり異例な出来事です。
実は、本作品のラジオドラマ化のあと、荻原さんの作品は「これは王国のかぎ」、「風神秘抄」の2作品がラジオドラマになりました。
青春アドベンチャー系の番組で原作として合計3作品も取り上げられた作家さんは結構希少です(詳しくはこちらの記事をご覧下さい)。
これらの作品が好評だったようで、それを受けて、異例なほど昔の作品が再放送されたのだと思います。
いかんせん枠が狭すぎる
ちなみに、この作品に関して、私はラジオドラマを聴く前に原作を先に読んでいたクチでした。
原作のファンとして見ても、ラジオドラマは雰囲気をそれなりに再現していたと思います。
しかし、いかんせん文庫版で500頁を超える大作に、15分×10回の枠は狭すぎました。
しかも、この狭い枠でストーリー全体を一応ちゃんと追っているために、逆に全体的に薄味になってしまっていると感じます。
本作品の脚色・演出は名作「A-10奪還チーム出動せよ」でコンビを組んだ佐々木守さんと笹原紀昭さんなのですが、いかに名手といえどもこの枠に収めるのは荷が重すぎます。
ストーリーを追うのでいっぱいいっぱい
私はラジオドラマでは、ラジオならではの臨場感とスピード感がある作品が最も好きなので、1989年発表作品の最高傑作は「妖精作戦」、次点は「ドラゴン・ジェット・ファイター」だと思っています(ただし、特に「ドラゴン・ジェット・ファイター」はあまりにも曖昧なストーリーから異論もあることは認めます)。
そうした中で、本作品はどうしてもストーリーを追うのが中心になってしまっている点が気になるものの、重厚なストーリーはなかなか聴きごたえがあり、1989年を代表する佳作の一つであるのは確かだと思います。
日本神話?
さて、本作はあきらかに日本神話をモチーフにした作品ですが、地名、登場人物、神々等の名前は基本的にオリジナルです。
そのため、本ブログでのジャンル(ジャンル分けはこの記事を参照)は「歴史時代」や「伝奇」ではなく「異世界」としました。
日本神話の固有名詞を使わないことによって、オリジナルなファンタジー作品として自由にストーリー展開ができますし、日本神話を全く知らない人にも受け入れやすくなっていると思います。
一方、日本神話の重要なアイテムやエピソード(草薙の剣、黄泉比良坂)を組み込んでおり雰囲気は十分に日本神話ぽくなっています。
エンディングも「神話の時代が終わり歴史の時代が始まる」というオーソドックスなものでとても受け入れやすいものでした。
最後が惜しい
出演は主役の狭也が河合美佐さん。
1987年のJR東海の「シンデレラエクスプレス」のTVCMが懐かしいです。
JRはこの「シンデレラエクスプレス」のTVCMに味を占めたのか、その後「○○エクスプレス」シリーズのCMを何作もつくっていました。
1989年の牧瀬里穂さんの「クリスマスエクスプレス」が抜群に可愛いかったのを覚えています。
河合さん、残念ながら現在は女優として活動されていないようです。
狭也は、生まれも育ちも、そして本作品中の事件においても、それなりに厳しい環境におかれているはずですが、河合さんの元気な演技のお陰か暗い雰囲気にならずに済んでおり、好印象です。
ただし、最終回、最後の台詞だけはもうちょっと上品に演じて欲しかった気もします…
なぜかいつも相手役
一方、狭也の相手役の稚羽矢(ちはや)役は宮川一朗太さん。
宮川さんは、この作品が放送された1980年代から、番組が青春アドベンチャーと名前が変わって以降までの長い間、青春アドベンチャー系の多くの作品に主要キャストとして出演されていました。
しかしこの作品の他、「ふたり」(赤川次郎さん原作)、「時はそよ風、時はつむじ風」(辻真先さん原作)、「彼女のライダーズシック」(香咲弥須子さん原作)、折原みとさんの天使シリーズ(夢みるように愛したい、天使の降る夜)など、不思議と女性主人公の相手役が多く、主役を演じられた作品が思い浮かびません。
松田洋治さんと対照的
「ウインブルドン」(ラッセル・ブラッドン原作)では主役と言えば主役ですが、これも、何となくもう一人の主役の「相手役」的な立ち位置。
同じ時期に、宮川さんと同様に青年役で良く出演されていた松田洋治さんが主役が多かった(アルバイト探偵、シュナの旅、645~大化の改新・青春記~など)のと対照的です。不思議です。
峰さを理さんと堀秀行さん
その他、稚羽矢の姉である照日王(てるひのおおきみ)は「峰さを理」さん、兄である月代王は堀秀行さんが演じています。
峰さんは、元宝塚のトップスターの女優さん。
後に番組が青春アドベンチャーとなった後の初期の頃には、前田悠衣さんを始めとした宝塚出身の方が多く出演することになりますが、峰さんはその走りだった気がします。
一方、堀さんはこの時期から青春アドベンチャー初期まで多くの作品に出演されており、「サハラの涙」や「Meg」では主演されていました。
ワルオ登場
また、闇一族側で、特筆すべきは鳥彦役の西川浩司さん。
欽ちゃんファミリーの一員で、1980年代には「欽ドン!良い子悪い子普通の子」のワルオ役で大ブレイクしました。
このメンバーで結成した「イモ欽トリオ」は当時、絶大なアイドル的人気がありました。
今でいえばイケメンお笑いタレントの走りのような方といったら良いでしょうか。
このような方を脇役にさらっと起用するのがNHKらしいところです。
【笹原紀昭演出の他の作品】
アドベンチャーロード期を中心に多くの傑作アクション作品を演出された笹原紀昭さん。
演出作品はこちらに一覧を作っています。
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