- 作品 : 盟友
- 番組 : アドベンチャーロード
- 格付 : A+
- 分類 : 少年(中高)
- 初出 : 1989年5月29日~6月2日
- 回数 : 全5回(各回15分)
- 原作 : 村田喜代子
- 脚色 : 村田喜代子
- 演出 : 西谷真一
- 主演 : 松田洋治
「喫煙常習犯」と「スカートめくり犯」に課せられた懲罰は、お決まりの便所掃除。
くすんだ高校生活が一層くすんでしまった。
でもピカピカになった便器は予想以上に美しく清々しい。
そう、やっている内に気が付いてしまったのだ「便所の哲学」に。
そうだ、どうせなら起こしてみよう、学校に「便所革命」を。
本作品「盟友」は、芥川賞作家である村田喜代子さんによる同名の小説を原作とするラジオドラマです。
芥川賞候補作
原作小説の「盟友」は元々、雑誌「文學界」1986年9月号に掲載された作品(文春文庫「鍋の中」収録)で、第96回(1986年下半期)の芥川賞の候補になりました。
結局、村田さんはこの回の芥川賞を受賞することはできず(この回は受賞者なし)、翌1987年上半期の第97回に改めて「鍋の中」で芥川賞を受賞することになります。
本ラジオドラマが放送されたのは1989年ですので、芥川賞受賞後に、受賞の前年に芥川賞の候補となった作品をラジオドラマ化した形になります。
原作者自らによる脚色?
さて、本ラジオドラマの放送において村田さんは「作」という位置づけでコールされています。
NHK-FMのラジオドラマの場合、原作小説がある場合、通常「原作」とされ、「作」で呼ばれるのはオリジナルの脚本の作品です。
しかし、本作品は明確に原作小説が先行していること、脚色者のコールがないこと、そしてネットを検索すると村田さんはアマチュア時代にシナリオを書いていたという記述が見られること(外部リンク)を考え合わせると、恐らく本作品は原作者さんが自分の小説を自らラジオドラマ用に脚色した作品なのだろうと思います。
本作品以外の例
このような例は本作品の放送されたアドベンチャーロード末期(サハラの涙、ぼくらのペレランディア)や、その後のサウンド夢工房期及び青春アドベンチャー初期(藤井青銅さんによる「愛と青春のサンバイマン」・「超能力はワインの香り」、成井豊さんによる「あたしの嫌いな私の声」、北野勇作さんによる「昔、火星のあった場所」など)にはポツポツと見られるのですが、その後は少なくなり、最近では吉野万理子さんの「恋愛映画は選ばない」(2013年)と藤井青銅さんの「ピーチ・ガイ~ハリウッドリメイク『桃太郎』~」くらいしかない珍しい形態です。
ちなみに村田さんの芥川賞受賞作「鍋の中」は1991年に黒澤明監督・脚本で「八月の狂詩曲(ラプソディ)」として映画化されているのですが、村田さんはその出来に不満だったそうです。
仮に村田さんがメディアミックスにおける自作の改変に関して比較的拘りが強い方であれば、本作品を自ら脚色したのもご本人の意向だったのかも知れません。
となると、できあがったラジオドラマを聴いて村田さんがどのような感想を持ったのか気になるところです。
便所革命
さて、かなり横道にそれてしまいました。
今更ながら本作品の内容紹介に移りますが、本作品を一言で言うと「便所掃除の話」です。
主人公・片山は、他と同じ行動をすることに少しだけ抵抗がある普通の男子高校生(高2)。
他人と同じようにタバコを吸い始め、1年経っても何も変わらなかったことから自分は他人とは違うことを証明しようとしてタバコをやめるつもりだったところを先生に見つかり、「懲罰」として便所掃除を命じられます。
そしてもう一人の主人公・塚原は、少女めいた見かけと生意気な言動で知られる1学年下の男子高校生なのですが、彼はスカートめくりの常習犯で、片山と同様に便所掃除を命じられます。
このふたりの「盟友」が、一緒に便所掃除をしていく中で意気投合し、学校の便所に「便所革命」を起こす顛末が主なストーリーラインです。
アドベンチャーではない
ただし、「便所革命」といっても「特殊な設定の世界におけるディストピアもの」ではありませんし、「下ネタをちりばめたショートショートSF」でもありません。
旧式トイレの底に堆積されている汚物に日が燦燦とあたる様子が細かく描写されるなど、それなりシュールなシーンはありますが、基本的には男子高校生2名が強い情熱を持ってひたすら便所掃除をするシーンが続くごく地味な作品です。
主なテーマ?は高校1・2年という、移ろいやすい季節に便所掃除を絆として奇跡的に生じた関係とその結末を詩情豊かに描くこと(?)のようであり、どことなく漂うユーモアは感じますが、「アドベンチャーロード」という番組名に反し分かりやすい「アドベンチャー」要素はありません。
一見、意外な作品チョイス
そう、端的にいうとこれは純文学なのです。
同時期のアドベンチャーロードといえばライトノベル(妖精作戦)や、親父向きのギトギトの冒険小説(黄金海峡)、海外もののハードサスペンス(暗殺のソロ)などが並ぶ極めて娯楽色が強い時期でした。
実際、本作品の前後も景山民夫さんの「遙かなる虎跡」と荻原規子さんの「空色勾玉」だったわけで、この間に芥川賞候補作が入るなんてかなり意外な並びです。
正直、放送当時に聴いた際には周辺の外連味のありすぎる作品群との比較から印象の薄い作品でした。
便所掃除だけど爽やか
しかし、改めて聞き直してみると、(多分)原作者自らの言葉による丁寧な状況描写と性格描写。
そして、主人公2人のモノローグや台詞が鼻につかない範囲で洒落ている(「盟友とは不穏な人間どうしの熱い友情関係なのだ」とか)。
そして便所掃除がテーマなのに爽やかさが損なわれていない。
テーマがあるのかないのか、正直よくわかりませんし、モノローグが多すぎるラジオドラマは本来余り好きではないですし、微妙に「腐」っぽい雰囲気があるのは女性作家ならではご愛敬だとは思いますが、空気感はさすがだと思います。
松田洋治=妖怪説
さて、主人公の片山を演じたのは俳優・声優の松田洋治さん。
同時期のNHK-FMでは「アルバイト探偵」や「シュナの旅」にも主演されていました。
ちなみに本作品放送時で21歳。
先日(2019年3月)、「今日は一日”ありがとうFM50”三昧~オーディオドラマ編」でMCをされた際には51歳だったわけですが、声が余り変わっていないことに驚かされます。
さすがプロ、というか、もはや妖怪?
また、もうひとりの主役である塚原を演じたのは保里治芳(ほり・はるよし)さんらしいのですが…
検索をしてもマラソン関係のデータしか出てきません。
同一人物かを含めて詳細不明です。
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