- 作品 : 仮想の騎士
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A
- 分類 : 伝奇(海外)
- 初出 : 2001年5月28日~6月8日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 斉藤直子
- 脚色 : 入山さと子
- 演出 : 吉田努
- 主演 : 小林愛
1751年、ルイ15世統治下のフランス。
剣の達人デオン・ド・ボーモンは、王弟コンティ親王に仕える美貌の騎士である。
最愛の人・クリスティーヌとの身分違いの恋を叶えるために、どうしても出世したいデオンは、密命を帯びてロシアへと渡る。
しかし、そこで身分を隠すために女装をしたのが運の尽き。
ロシアでの外交交渉は上手くいったものの、デオンは、ロシアで男と女の2役を使い分けなければならなくなってしまう。
折しもフランスでは、謎の男・サン・ジェルマン伯爵や、庶民出身の野心家で王の愛人であるポンパドゥール侯爵夫人、そして、イノセントではあるが意外ととんでもない怪人物であるルイ15世などが暗躍をしている。
一方、ロシアでも、女傑である皇帝エリザヴェーダ、切れ者の宰相ベスドジェフ、古臭いフランス語でデオンを煙に巻く副宰相ヴォロンツォーフなどの、一癖も二癖もある連中が蠢いている。
デオンは、陰謀渦巻く国際社会を無事に生き抜くことができるのか。
そして謎の男・サン・ジェルマン伯爵の真の目的とは何なのか。
斉藤直子さん原作で、第12回の日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した小説が原作のラジオドラマです。
原作者の斉藤さんは寡作の作家、というより単独の単行本として出版されているのは本作品だけという超寡作な作家さんです。
検索したところ、本作の他には、2011年に出版された「書き下ろし日本SFコレクション NOVA6」の1篇を書かれていることしか分かりません。
本作は文学賞を受賞した作品ですし、アマゾンの書評などを見ると評判も上々のようです。
書く舞台が与えられないのか、書く気がないのか、よくわかりませんが、残念なことだと思います。
本当に実在の人物?
さて、本作品の設定はとても奇抜で、登場人物達もみな、キャラが立っているのですが、主要な登場人物達は歴史上の実在の人物らしいのが驚きです。
本作ではわき役に過ぎないポンパドゥール夫人あたりですら、佐藤賢一さんが「かの名はポンパデュール」などで題材にするほどの癖のある人物です。
この中で主役を張るデオンですので、史実での行動からして、ロシアに渡るときは実際に女装していたとか、後半生を女性として過ごしたとか、何とも胡散臭い人物です。
このデオンの盟友となるジャック・カサノヴァも実在の人物。
二人とも実在の人物であると同時に、フィクション作品における登場人物としても有名で、何となく物語の世界からでてきなような雰囲気のキャラクターです。
外連味たっぷりのバディ
このデオンとカサノヴァの二人の剣豪が並び立つ様は、佐藤賢一さんの「二人のガスコン」(こちらの記事をご覧下さい)における、シャルル・ダルタニアンとシラノ・ド・ベルジュラックにも似た雰囲気です。
こちらの剣豪二人も実在の人物をモデルにしながら、むしろフィクション上で有名になった人物。
「仮想の騎士」の原作小説が発売されたのが2000年12月、「二人のガスコン」が発売されたのが2001年1月というのも奇妙な一致ですね。
ヨーロッパ史上最大の謎
さて、胡散臭い人物と言えば、「ヨーロッパ史上最大の謎の人物」といわれるサン・ジェルマン伯爵を挙げざるを得ません。
前半生がよく分からないとか、異常に若く見えたとか、前世の記憶があったとか、複数のアジアの言語を含む多国語に通じていたとか、あげくには、音楽の名手だったとか、2000歳だったとか、日本に滞在したことがあるとか、もうめちゃくちゃです。
これらの胡散臭い人物達が宮廷に堂々と出入りしていたこと自体が不思議ですが、その史実を生かして本作品は痛快な冒険劇になっています。
フランス中世ものはなぜか多い
実は青春アドベンチャーには、この中世末期のフランスとか、美形の騎士とかのテーマを扱った作品が、なぜかたくさんあります。
「ベルサイユのばら外伝」、「紅はこべ」、「スカラムーシュ」、「ブルボンの封印」などで、少々、食傷気味の感はあるのですが、本作品もその中でもケレンミに富んだ楽しい作品です。
終盤の展開は人を選ぶかも
本作品で評価が分かれると思うのは、作品終盤で明らかになる、デオンの恋人であるクリスティーヌに関する、ある事実。
作中、出てきそうでなかなか出てこないクリスティーヌであり、途中から微妙に怪しい雰囲気もあるのですが、最後にはクリスティーヌのみならずデオン自身も含めた意外な事実が明らかになります。
しかも、その過程で“フラッシュバック”とか、“PTSD”とか“マインドコントロール”とか、妙に現代的な用語まで飛びだして来るのです。
本作品(の原作)は歴史小説ではなくファンタジー小説ですので、あまり、とやかく言っても仕方がないのですが、人によっては荒唐無稽すぎると感じるかも知れません。
まあ、サンジェルマン伯爵がでてきている時点で、何でもありなんでしょうけど。
デオン役は小林愛さん
主役のデオン役は女優・声優の小林愛さん。
女と見まごうばかりの美貌の持ち主であるデオンを、実際の女性が演じているわけです。
ちなみに小林愛さんは2016年の「文学少年と運命の書」でも、男か女か最後までわからない美貌の暗殺者を演じています。
なお、以下で書くとおり、本作品ではサン・ジェルマン伯爵役の池田秀一さんと、カサノヴァ役の佐々木蔵之介さんという、実に濃い出演陣に挟まれている小林さんですが、なかなか存在感のある演技です。
池田秀一さんがぴったり過ぎる
そうはいっても、やはりデオンの師匠格であり、特に後半になって作品の裏側で暗躍することになる、謎の人物・サン・ジェルマン伯爵役を演じる池田秀一さんが秀逸です。
池田さんといえば、「機動戦士ガンダム」で、最強の敵役シャア・アズナブルを演じたことで有名です(機動戦士ガンダムの声優の青春アドベンチャーへの出演についてはこちらの記事参照)。
今まで紹介した作品では「最後の惑星」に、ちょい役で出演されていました。
本格的に青春アドベンチャー系の作品に登場しているのを紹介するのは初めてですが、言動が実に胡散臭いサン・ジェルマン伯爵を演じさせたら、さすがに雰囲気のある演技です。
佐々木蔵之介さんまでご出演
また、デオンの友人でヴェネツィア生まれの剣豪ジャック・カザノヴァ役を演じるのは、TVドラマ「ハンチョウ~神南署安積班~」などで人気の俳優・佐々木蔵之介さん。
2000年のNHK連続ラジオ小説「オードリー」で脚光を浴びた佐々木さんですが、本作品は2001年の放送ですので、「オードリー」出演直後であったことになります。
本作品のカサノヴァは「イタリアなまりのフランス語」という設定の関西弁を話すのですが、佐々木さんは京都の造り酒屋の次男坊であり、ネイティブの関西弁スピーカーのはずなので、ぴったりの役ですね。
実はカザノヴァは冒頭で登場して以降、終盤までほとんど出番が無く、佐々木さんは実はナレーター(カサノヴァがナレーションをしている設定)としての出番がはるかに多い構成です。
得意?の関西弁をいかしたナレーションで痛快な物語をつくりあげています。
ちなみに佐々木さんは青春アドベンチャーを代表する長編シリーズの一つである「BANANA・FISH」(主に第3部)や「黒いユニコーン ランドオーヴァーpart3」にも出演されていたようです。
後者は私はあまり印象に残っていないのですが、機会があったら再視聴して確認してみたいと思います。
その他も凝ったキャスティング
それにしても、ベテランの人気声優である池田さんと、若手の人気俳優である佐々木さんを、二人とも脇役として競演させてしまうのが、NHKの、そして青春アドベンチャーの凄いところです。
その他、檜山修之さん(「機動戦士ガンダム MS08小隊」シロー・アマダ役)や西村知道さんなど脇役も充実しています。
入山さん仕事の幅が広いな
本作品の脚色は入山さと子さん。
「僕は勉強ができない」や「氷山の南」といった日常系の作品から、「これは王国のかぎ」のようなファンタジー、「金春屋ゴメス」のような奇想天外な話しまで幅広く担当されています。
吉田努さんは娯楽作品も得意
演出の吉田努さんも20作以上の演出を担当されているベテランさんですが、不思議と今までこのブログで紹介した作品は3作品だけ。
傑作「DIVE!!」のほか、「スウィート・アンダーグラウンド」と「リテイク・シックスティーン」です。
コメント
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佐々木蔵之介さんが出演されたなんて全然気付きませんでした。そして池田さんが務める役柄はいつもミステリアスな感じがしてとても好きです!
この作品を聴いた感想はあんまり面白くなかったです。いきなり過去と未来を行き来する人物が登場したところからアナスタシア・シンドロームを思い出しました。そして展開が早すぎるのもちょっと可笑しかったです。
一言でいうと、この作品は無茶苦茶です!
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コンさま
コメントありがとうございます。
確かに、終盤のびっくり展開は人を選びますよね。
まあファンタジーものということなのでしょうね。